第九三七回 駆け回る草原。今再びのサンメモリー。


 ――その場所はというと、カントリーロードの脇道にある児童公園だった。



 ジョギングコースに含まれる場所だけれど、りんと、それにエックちゃんと来たのは初めてのこと。夕陽に向かって駆け出し、今ここにいる。そこには懐かしき遊具。


 ブランコを始め……


 ジャングルジムや雲梯、土に半分埋もれたタイヤも鉄棒も、何もかもある。どうして今まで気付かなかったのだろう? それは凛がいたから? 蘇る、楽しかった時の記憶。導いてくれたんだね、エックちゃんが。すると「ワン!」と尻尾を振っている。


「さあ千佳ちか、どちらが早いか競争だよ」


 と言って、凛は掴まる雲梯に。端から端まで渡ってゆく。僕も負けないけど、凛は早いの。子供の頃は距離感があったのだけれど、今はもう一瞬のこと。まるで長いようで短い年月のようで……「待ってよ、凛」「ヘヘン、待たないよ」と、弾む台詞も。


 そう言えば、こんな光景あったね。


「どお? 思い出した? 凛たち、こんな風に遊んだんだよ。ジョンも一緒だった」


 と言う凛。紐解かれた記憶の糸。赤い糸だった。ボッチだった頃よりも、もっと前は楽しかった記憶……じゃあ、ボッチだった頃はトンネルのよう。通り抜けたら、


 明るい光。必ず入口も出口もある。


 なら、僕らはもう、トンネルを抜け終えた。明けない夜がないように……


 そして、冬は必ず春となるの。喩え冬がちょっとばかり長くても、春は必ず来る。


 誰にでももれなく。僕にだって来たから。左の手首の傷跡は残っても、楽しかった思い出は消えることはなく記憶の片隅で。それはまるで学園の片隅に落下した、ミラーボールのような物体Xのように。輝ける時、楽しかった時もあったと思い出せたの。


 そう言えば、エックちゃんがジョンに見えたのは気のせい?


 それでもやっぱり、遠い星からの贈り物だったの。そう確信する。星の王子様からの贈り物。僕が星野ほしのなだけに。それが可能なのはきっと、旧一もとかずおじちゃんと思う。



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