第四六三回 静かなる雨は、二人の木曜日の早朝を飾る。


 ――そう。知らず知らずに降っていた雨は、無色透明。音もなく大地を叩いている。



 或いは音のない世界。


 それもまだ夢現のような感じの、不確かな世界観。それでも感じるのは、僕の体温とは他に、梨花りかの体温。その息遣いも、心臓の鼓動まで。――それだけは確かなの。そして僕は千佳ちか……それ以外の何者でもない。だから、今この時をギュッと抱きしめる。


「千佳、おはよう……」と、梨花の声が届く、聞こえる。


 僕の心は、ようやく受け入れた。周りの景色も、何よりも梨花のことを。そこからまた音が聞こえる世界。景色もモノクロからカラーへと、現実の世界へと誘ったの。


 そして、


「……ただいま」と僕は言う。ニッコリ笑う梨花は「おかえり」と、一言添えた。しかしながら、まだ本調子ではなく、昨日の朝以来、食事が喉を通らなかったのもあり、今日はお休みした、学園を。梨花も一緒にお休みとなって……明日、元気に登校できるように。


 まずは心の治癒も兼ねつつ、


 梨花と一緒に朝シャンして、それから食事となる。空腹のはずだけれど、喉を通すのには苦労が絶えず、胃もキリキリ痛む。でも、梨花が見守っていてくれるから、僕は頑張れる。食するのは生きるため。味噌汁の温かさが染みる。ゆっくりゆっくり食す。


 締め括りはマカロニ……


 マカロニの卵サラダなの。この辺りから、じわっと涙が染みる。


 昔では考えられなかった、皆のいる食卓。家族みんなが優しかったこと。……思えば巡り合わせ。梨花との、そして『書くと読む』との。


 なぜ僕は梨花と同じように執筆を始めたのか? それは執筆したいから。そして僕と同じように足元が見えない子に、光を灯してあげられたのなら。それはもう本望。


 ――だからウメチカは、千佳じゃなきゃね。


 と、梨花は言うの。そして「千のストーリー、応援するからね」とまで。

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