第四六一回 残るのは僅かなる謎? そして千佳も……


 僕らは、お家に辿り着いた。もちろん千佳ちかも一緒だ。……でも、少しばかりは無事ではなく、千佳は籠ってしまった。涙を拭くのも忘れて自分の部屋に。


 僕にはわかる。あの男のしたことは、千佳の思い出を……心の傷を蘇らせるのには充分に、あまりにも過去を煽り過ぎた。僕の脳には、後悔の念が広がって……



「ごめんね」と、いくら謝っても足りない程に、僕は僕の部屋で膝を抱えていた。涙も流れそうな不陰気だ。――(何で僕は、千佳にあんなこと言ったんだろう?)


 誰よりも、千佳のことを理解していたはずなのに、何でわかってあげられなかったのだろう? 千佳の言う通り、知ろうともしていなかったのかもしれない。……千佳は、もう筆を執れないのだろうか……なら、僕のせいだ。大好きだったウメチカを、僕は潰してしまった。良かれと思ってしたのに、……本当に泣けてきて、千佳が治るまで僕が、僕がウメチカを続けるよ。――PCを起動させて、とある小説サイトの『書くと読む』のウメチカにログインする。画面に広がる千佳の作品と、読者のコメントたち。


 そうなるともう、涙が止まらない。

 それでも執筆……今日の更新なの。



 逃げ場のない電車の中、あの男が追いかけてきて……あの時、なぜタイミングよく刑事さんがいたのか? それもマカロニウエスタン風の私服警官が。つい先ほど知った話だけれど、ニュースに流れていた。あの男は最上もがみ茂吉もきちという四十九歳の無職の連続婦女暴行魔で指名手配されていたそうだ。もし僕らがあのまま連れ去られていたら……そう思うと身の震えは止まらずで、僕でもそうだから千佳はもっと……わかってあげられない程。



 マカロニ・二世さんは、最上という男を張り込み追っていたそうだ。その情報は善一ぜんいちさんから聞いた。「君たちが無事で何よりだ」との言葉を添えて、スマホから。そして今はもう静寂の夜。籠ったまま部屋から出てこない千佳だったけど、そっと……足音が。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る