第四二九回 風に乗って、自転車にも乗るの。


 ――そして貴方の背中にしがみつき、夢の彼方まで。



「って、家に帰るんだろ、千佳ちか?」


「あっ、そうだったね」……と、僕は今、太郎たろう君の背中にしがみつき、一つの自転車で運ばれているの。太郎君の運転する自転車。色は緑色で、河原を流れるエメラルドの水にも似たり。太郎君にピッタリの色。きっと向かうは五月だね。五月雨は……緑色だから。



 ――初恋。

 紛れもなく初恋なの。遠い日に出会った頃から、今も尚。


 ギュッとすると響く……太郎君の鼓動。トックントックン……僕の胸も高鳴って、


「千佳、あんまり密着するとな、胸……当たっちゃうんだけどな」

 と、太郎君は声にする。オブラートに? 言いにくいのもわかるのだけれど、


「……ばか」

 と、僕は顔が熱くもなりながら、照れ隠しにもならない台詞を零した。


 そしてふと、


「……宣言、発令したばっかなのに、僕らは思いっ切り密で、それに二人乗りだから、見つかっちゃうと思いっ切り怒られちゃうね、おまわりさんに」


「そこは俺と千佳の仲だから。マスクもしてるし、このカントリーロード。俺たち二人だけの貸し切りなんだから、今だけ大目に見ても大丈夫だろ?」


「ウフフ……そうだね」


「何だ何だ? 急に女っぽくなって」


「って、女の子だよ、僕。……でも、今日はどうしたの?」


「久しぶりにな、千佳と℮スポーツやろうと思ってな、来ちゃったんだ」

 ……と、それが理由だ。


 太郎君と℮スポーツするのは久しぶり。中等部三年生との両立が颯爽と始まる予感。



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