第四〇一回 千佳の『ビューティフル・レイン』


 ――お話は続くの。ここは敷地内、鉄道博物館の。そして満喫、満喫なの。



 そしてそろそろお昼時。アラームの代わりに、僕の『体内時計』が鳴り響く。鉄道博物館なだけに、まるで鉄道模型の電車のようにすれ違う人。通りすがりの人も交えて、クスクスと笑う。それに傍らの太郎たろう君も、笑う……笑いながら、


千佳ちかの体内時計は正確だな。バッチリ正午」と、言った。


「どお? 僕の体内時計、すごーいでしょ」……ドン! と胸を張り胸を叩く。その割には顔から火が出そうな感じ。「照れ隠しにしても酷い」と、太郎君からのコメント。



 と、いうわけで、お昼は回転寿司ならぬ、鉄道模型寿司……模型の電車がお寿司を乗せて運ぶの。それを見て太郎君は「千佳、いつになく目がキラキラ輝いてるな」と、またもやコメント。家族連れのお子様にも勝る燥ぎっぷり……とも付け加えられた。


 ――そしてお外。

 梅の小路の機関車を見ていた時だ、二人並んで……


 転車台に乗る機関車が、白煙を噴き上げながら回転するその時、急に降り出した雨。最近の雨は、まるで水蒸気のような感じが多いのだけれど、この度のは違って、珍しくもそれなりに、激しく降る雨。その最中、手を差し出す太郎君。そしてその手に触れた時、



 ――えっ?


 太郎君の瞳の中に映る僕。太郎君も、僕と同じように驚いたような表情で、


「千佳、もしかして昔……五歳頃かな? 俺と会ってないか?」


 と言う……実は僕も、太郎君に同じ質問をしようとした。――何処だったか、何処でたっだか……あっ! 「映画館! ……で会った」「男の子」「女の子」と、お互いがお互いを指さしていた。大きな大樹の下で、あの日と同じ景色を彩る雨。……そう。あの日と同じような『ビューティフル・レイン』の見える色褪せない景色の中に於いて。



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