第三九一回 まだ続くの三月九日。


 ――それも丁度お昼時。まだまだ行くの、京の都の奥深くへと。



 思えば朝の突然の思いつき。梨花りか可奈かなと一緒に通学している最中、突然魔が差し二人と離れて、反対側のプラットホームへと駆け出し、来た電車に乗った。……そのまま無断欠席の道へと。僕は学園に行くよりも、エスケープの道を選んでいた。


 理由は、……自分でもわからないの。


 とにかく今日は、登校するのが我慢できない程しんどくなったから。

 できるだけ遠くへと、車夫しゃふと巡り会い人力車。京の都の見物までに。



 それから、それから、路面を走る電車に乗る。乗りたくなったから。今日が三月九日だからかな? その緑色をした電車に会うために、もしかしたら、ここに来たのかもしれない。なら、窓から見える風景を満喫だね。お昼は空いた時刻を見計らおうと思うの。


 すると味を占めたのか……


 僕は向かった。今乗っている路面電車も乗り継いで、単線にも、歴史を刻む鉄道の博物館まで。……そしてそこは、昔から行きたかった場所。それを思い出したの。


 本当なら、パパと行きたかった場所なの。


 本当なら……


 でも、一人で来ちゃった。誰もいないの。――「千佳ちか!」と、僕を呼ぶ声。


 目で追う。それほど人は多くないけれど、それもこの広場で。緑囲む場所。


 えっ、ええっ?


「パパ?」


 驚かずにはいられないこの場面。それにこのタイミング。シルエットからハッキリと姿も形も詳細なところまで――パパが近づいてくるの。グッと手を握った。乱暴ではなく温かくも「行こう、千佳。パパが連れて行ってあげるよ、鉄道博物館」と、言った。


 ……怒ってないの? 満面な笑顔なの、パパ。僕は今日、学園をサボったのに。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る