第三九〇回 令和三年の三月九日。


 ――イメージは路面電車。平日だけれども、学園とは逆の方へ向かう意図的に。



 梨花とも可奈とも離れ離れ……


 もう戻る気はなく、少しばかりのエスケイプ。


 どうしてかな?

 どうしてだろう? 少しばかり疲れたの。現実に……



 灰色のお空。電車から降りると、そこは……京の都。まるでタイムスリップしたような情景。そして走る人力車。純白の半袖シャツの車夫……シャツ越しでもわかるバキバキの筋肉。語り合い駆ける道程。上へと上へと。


 そこで僅かばかりの夢を見る。白昼夢という名の下に。


 春の温かさはもう少し先……



 でも桜並木を約束する。不要不急の外出自粛を謳う電光掲示板、プラットホームで見かける。車夫に言う、ここまでと。支払う料金……それは僕のお小遣い。ということは、夢の中でも支払いは発生する。序に問う、あなたのお名前。……お名前は、車夫という。


 人力車の車夫。……それが、その人のお名前だったの。


 そして僕は乗る。路面を走る電車。……奏でる効果音。その中で蘇る可奈かなのお言葉。


 それは理由。


 僕が朗読者に選ばれた理由。とはいっても、このエスケイプには、あまり理由はないのだけれど、心のお掃除ってところかな? 或いは、お洗濯かも。


 葉月はづきちゃんのポエムを僕が朗読することによって、聴いた生徒たちは、それと似たような効果を得るそうだ。――どうも癒しの効果があるらしい。今の殺伐とした社会情勢の真ん中に於いて、必要不可欠と……そうも可奈は言っていた。


 そして三月九日は、まだ始まったばかり。少しばかりの冒険へと駆けてゆく。



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