第三六九回 五人目は――星野千佳。(イメージカラーは黄色)


 それは、僕……

 この地球上で、この世界の中で唯一、他の誰でもなく、紛れもなく僕。


 残る傷跡。……手首の傷跡。


 もう二度と、起きることのないフラッシュバック。……大切な人たちがいるから。涙の温かさを知った日から、それらはもう過去となった。僕が前を向いて歩いた証拠だ。



 ……


 ほろっと、涙が零れる。辛口のカレーライスを食したから。今の季節には、とても良い辛さ。僕の好物は、やっぱりカレーかな。週一度の。梨花りかと一緒に食すから。


 梨花もまた、……涙している。


 女の子は甘党なのかな? でも、嬉し泣き。甘党でもなく、とても美味しいから。


 それはパパの作るカレーだから。

 お母さんも一緒に……混ざり合う二人のハーモニー。愛を奏でる共同作業だから。


 ともに一家団欒。皆で食すから。


 分身のようでも、梨花にはない僕の手首の傷跡。けれど僕らは一緒、これからも。明日も明後日あさって明々後日しあさっても……ずっと。魂の永遠ほどに、未来永劫に。


 交わす言葉は「美味しいね」「美味しい」と……


 これより先は『明日どうしよう』とか『死にたい』とかの言葉はもう、存在しない。そう確信する僕は。――ねえ、そうでしょ、お母さん。


 僕は見る。お母さんの顔。今の……お母さんの顔。もう昔の悲壮感はない。むしろ堂々と、パパと一緒に『星野ほしの家』を名乗っている。優しいお祖母ちゃんの眼差しとともに。


 ハッと思う。

 ティムさんが言った『僕はもう大丈夫』のその意味を。


 もしかしたら、僕のあしながおじさん(ティムさん)は、この日々が訪れることを見据えていたのかもしれない。――そう。僕がウメチカ物語に描く日々のことを。



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