第三〇九回 そして……見えていた子。


 ――お話を進める前に今一度、確認したいことがあって、今ここに綴ってみる。



 ここでエッセイを綴るのも、

 今日が最後になる。……一文字、一文字を噛みしめながら綴る。


 明日の今頃は、もう新居に身を置き、きっと梨花りかのお隣のお部屋で執筆していると思われる。梨花のお部屋のイメージが『桜』なら、僕のお部屋のイメージは『向日葵』……つまり桃と黄で彩られる。すでに、そこの駐輪所に停まっている二台の自転車と同じだ。


 明日は新一しんいちパパが……ううん、パパが車で送り迎えしてくれる。梨花も一緒に。


 学園の往復と、そして新居まで。

 そこで、お祖母ちゃんに会うの。明日からずっと一緒……楽しみだ。



 そして今一度、確認したいこととは……


 旧一もとかずおじちゃんが見えるのは僕と、葉月はづきちゃんの二人だけだということ。


 梨花には見えないし、可奈かなも、お母さんにも見えないの。……だとしたら、心当たりがあるとすれば、僕は手首を切ったことで、葉月ちゃんは病気になったことで……


 臨死体験というのか、命に係わること。

 それがきっかけ……なのかな? 見えるようになった。なったそうなの。


 幽霊とはいっても、

 テレビとかで拝見する幽霊とはイメージが違うの。とっても優しかった。


 そしてきっと、僕が二度と手首を切らないように、葉月ちゃんが元気な体を手にするために……僕らを見守り守ってくれていた。誰よりも命を大切に想う幽霊だったの。


 それはティムさんのように、あしながおじさん的な存在……


 そして……そう、この古時計は、旧一おじちゃんが大好きだった古時計。旧一おじちゃんの形見だったの。――明日は、僕と一緒に新居に行こうね。そして僕のお部屋の時計として、また動き始めるの。これからは僕と、新しい時を刻むのだから……



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