第二八一回 時は、……止まらずに動いていたの。


 ――木枯らし一号は、季節の変わり目を告げる。肌寒い季節、冷たい季節。



 道歩く僕……


 今日は一人、……ううん、今日も一人。


 君との日々は、冬の到来を忘れさせていた。ポッカリ開いた胸、心はまだ此処にある。

 葉月……八月のあの日。


 芸術部も、あの日のまま……時が動いていることを、忘却していた。


 でも、でもね、

 ――寒いよ。そして震える体。すると、ファサッと覆いかぶさる……これって?


「あんた馬鹿?」――えっ? 上着? ベージュのカーディガン?


美千留みちる、どうしたの?」――振り向くと、彼女がいた。


「この寒空を半袖で……しかも体操着。いじめにでもあってるの? 何処の誰? 私がとっちめてやるから言いなさいよ。風邪ひくだけじゃ済まないんだから」


 と、ユサユサと、僕の体を揺らすの。


「ちょ、ちょっと、やめっ、首もげちゃうからっ!」


 と、そのくらい激しかった。……止まった。でも、じっと僕の顔を見ているの。


「ふ~ん」


「ちょ、なになに?」


「とっちめる相手がわかったわ」


「へっ?」


「あなたね、ちょっと来なさい。今日という今日は、首根っこ掴んででも、やってもらうんだからね。その腑抜けた面、きっちり変えてやるんだから」


 って、もう首根っこ掴まれているよ。それでもってズルズルと、引き摺られ……


「やるって何を?」と、溜まらず僕は言う。


「ふざけてるの? ℮スポよ、℮スポ。メール見てないの?」と、美千留は言った。



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