第二三八回 そして足音……近づいてくるの。


 ――時は止まる?


 そんなことはなくて、コマ送り。少しずつ動いているような、そんな感じ。



 微かなる息遣い? 微かなる気配? そのどちらでもなくて、存在感ありありの、とにかく足音。……母。母親。太郎君ならどっちかな? どう呼ぶの? 梨花りかと同じようにママ? 僕のようにお母さん? それとも母さん? 関西風に、おかん?


 それで思い出したの。

 僕は、太郎たろう君と一緒に、いつか一緒に行きたい場所。


 それはマック? それともマクド? きっと、それでわかるわよね?

 ほら、開けられる襖。……おっと、その前に一声だ。


「ちょっと入るわよ」との一言。


 その一言によって対面、ご対面。今この瞬間、少なくとも本日初めて顔を合わせる。

 それでも、それでもね、


「お初にお目にかかります」……ではないの。


 この瞬間の反応に、それは託させる。託されたのよ。……そう。次なる台詞に。



「太郎、誰か来て……って、

 あら、千佳ちかちゃん。お久しぶりね、元気にしてた?」


「お邪魔してます、おばさま。

 おばさまも、お元気にされてました? 簿無沙汰しておりました」


 いつ見ても、……というよりも、あれから年月は経っているのに、おばさまは若い。三十代前半ほど、そう見えそう通用するような。綺麗なお人だ。女の僕から見ても、惚れ惚れするような、僕も大きくなったら、この様な女性になりたいと思えるほどなの。


「って、おかん、千佳のこと知ってたの?」


 と、太郎君は問う。……太郎君の知らない僕とおばさまの関係が、今ここで明らかに。



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