第二三九回 ……それは知られざる関係。驚愕なる今その時。


 ――太郎たろう君にとっては、そうだったのかもしれない。太郎君の知らない僕がいたの。



 三度ほどあったの、僕と太郎君のお母さんの面識というか、接触というのか……お家にだってお邪魔したの。いずれも太郎君の不在時、または留守中に。初めはまだ……


 太郎君と出会う前、

 ……というよりは、まだ面識がなかった頃に。



 黄昏の……彷徨える路地裏と小径。ちょうどこのお家の近所、近くで泣いていた。僕の一人称がまだ『私』だった頃。お洋服が泥水で……学校でいじめられてその帰り道。帰っても、まだお母さんはいない。きっとこれから、僕のような子供が知ってはいけないお仕事に行っていると思われるの。抑えられない思いが込み上げて涙しか行き場のない僕を見つけて、おばさまはお家に、この太郎君のお家へと僕を連れてきてくれた。


 僕をお風呂に入れてくれて、汚れたお洋服も洗濯してくれて、

 優しく、本当に優しくしてくれた。……あの頃の、僕がまだ小さい頃の、


 まるで、お母さんみたいに。お話もしてくれたの。おやつも食べさせてくれたの。


 それから、お友達。


 延べだけれど三度。それでも長い付き合いのようで……もちろん途中で知ることになったの。おばさまがね、太郎君のお母さまということを。



 だから、いずれも留守中。

 太郎君の留守中で、コッソリとね。……だから、太郎君はそのことを知らないの。


 それはある意味ね、女と女の秘密の部分もあるから。そのことについては、お母さんよりも教えてくれたの。太郎君に知られたら恥ずかしいことだから……初潮で泣いちゃった時も。体の変化で心配なことも。……心のケア。そう、心のケアだったの。


「マクドで買ってきたの。みんなでお昼にしよっ」と、おばさまは言った。



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