第二〇一回 パチリと、目覚めたら。


 へっ? 何で?


 と、声にならない自問……自答に至らずに。


 目の当たりには、しっかりと、太郎たろう君の顔。その存在感は、ここが僕のお部屋ということを、あともう少しで忘却させられるところだった。……危ない危ない。



 それにしても梨花りかは? 昨日お泊りしていて、僕の傍らにいたはずで……でも今、僕は一人お布団で寝ており、太郎君が僕の顔を覗き込む、そんな状況だった。


 ボン! と唸るほど、


 僕の顔、熱を持つの。ほんの一瞬のことだけれど、昨夜の余韻が蘇る。僕と太郎君が結ばれる場面が……それにそれに今のこの状況、寝起きなのに見られているの僕の顔。


 恥ずかしさMIXで、


「ど、どうしたの、太郎君?」


 と、それが精一杯の言葉なのだけれども、


「おいおい、お前が約束の時間になっても来ないから、どうしたのかな? っと思って来たんじゃないか。……まあ、昨日が昨日だったし、まあまあ、そういうことで……」


 と、歯切れの悪い語尾の太郎君。……それでも、ま、まさかと、時計を見たらね、

 サーッ、という体内の効果音で、


 表示は、十一時二十五分。針ではなくてね、デジタル表示でね、


「あはっ、あははは……」


 と、笑う場面でもなく、笑ってしまうほど、……遅刻を通り越した遅刻で、


「本当に、傑作だよ、お前」と、笑い笑われ、笑いの合唱。この場で行われ。


 実に……二時間余りの遅刻で、そう思っていたらヒョッコリと、将又ヒラリとも表現できるような趣で梨花も登場して、「おはよっ、千佳ちか」と、声をかけくれたの。


 ……何となくわかる。


 またもや梨花が、機転を利かしてくれたようなの。一枚も二枚も上手なの。



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