第百八十三回 シンデレラの刻、過ぎても。


 ――午前零時。それも過ぎゆく。



 でも……

 僕らの魔法は解けない。


 僕らはまだ、シンデレラのまま。そしてここは、二人だけのお部屋……


 古い写真。


 そこに映っているものこそが、僕の訊きたいことを凝縮する。

 ……いや、正直なところ纏めてくれたの。



 まずは男の子。その子は、やはり太郎たろう君だった。……梨花りかは、話してくれた。僕が太郎君と出会うその前から、梨花は太郎君と面識があった。……それどころか何回か、お泊りまでしている仲だった。それは小学四年生の春から五年生の夏にかけてで、それが梨花のいう『マックス一年半』……つまり同じ土地に、一番長くいた期間なのだ。梨花は、お引越しの多い子。つまり当時の新一しんいちパパは転勤族だったのだ。



 太郎君は母子家庭で、お母さんの旧姓の『霧島きりしま』を名乗っている。つまり太郎君のパパとは離れて暮らしているの。太郎君のパパのご氏名は、南條なんじょう太一たいちさん。新一パパとはお仕事の関係で、古い付き合い。……実は、この頃から『プロジェクト・ウメチカ』は、極秘裏にというよりは軽い感じの『密かに』……その原型からの、輪郭からの計画が施されていたのだ。――二週間に一度、太郎君は、太一さんのお家に遊びに来る。


 それを見計らって、梨花は新一パパと一緒に訪れる。土曜日と日曜日、お泊りする。


 プラモデル、一緒に作った。


 お風呂で洗いっこもしたし、カレーも一緒に食べた。……まったく同じことをしていたのだ。もう日付は変わったが、今日の僕と梨花と、その……まったく同じことを。


 だったら、「何で言ってくれなかったの?」と、そう僕は、梨花に問う。



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