第百七十六回 ……斬。


 ――真っ二つ!



 無数のハンマーを、回転させて投げてくる肥満型のオジサン。つまりティムパパのアバターが頭から……見事なまでに。


 太刀。或いはブレード。サーベルともいうが、


 いずれにしても、二次元の嘘も解消しながら、魔法のステッキが変形したもの。僕は己のアバターと心を一つとし、一片の迷いもなく恐れもなく、一思いに振り下ろした。



 もはや見た通り……


 肉を切らして骨を断った。……そのはずだった。ゲボッと、吐血した。


 ――千佳ちか


 と、会場に響く声。


 その中でも太郎たろう君。大画面の中に於いても、寄り添ってくれた。ステージは冷たい宇宙空間。僕の……僕のHPヒットポイントは、減っていくのだ。


「太郎君、僕ってほんとドジだね……」


「喋るな! それ以上は……」


「ありがと。……でも、もう助からないよ。貫いちゃってるの、僕の背中……」


 あの時かな?


 新一しんいちパパのアバターが爆発した際に、鋭利な破片……尾翼の一部が深々と、背中から刺さっていた。その尖った先端が……お腹から飛び出している。


「本当に……かっこ悪いね」


「そうだな」――と太郎君。何ですって? という具合にムッときた。でも、間髪入れずに、まだ続きがあるようで「……でも、最高にカッコよかったぞ千佳。俺たちは勝ったんだ、チャンピオン候補のパパたちに。俺たち優勝したんだ!」


 嬉し涙。……アバターにも。僕以上に、リアルな太郎君は涙を流していた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る