第百三十七回 一四三〇・〇四七八……


 ミリ単位だけれど、これが現在の僕の身長で……これまで同じと信じていた梨花りかの身長とは、差があったの。それはコンマよりも細やかな数字だけれど、僕より高かった。



 例えるなら忍者屋敷のように、からくりの多い芸術棟。学園の七不思議をすべて担いそうな仕掛けの数々で……それもそのはずで、元は令子れいこ先生のセカンドルームだから。


 一階から三階まで、そうだから。


 全て、そうだから……。それを僕らのために、僕らの教材のために、僕らが学園に在籍するその前から、それよりずっとずっと前から、プレゼントしてくれた無償の愛で。


 その人物、その御方、その人は……令子先生のお父様。

 僕らの学園の理事長。


 学園を設立した人物でもあるこの御方。学園は『西原にしはら財閥』と深く深く……繋がっているのだ。いじめやスクールカーストのない世界を創り上げた過程が、またはその歴史がそこに……密やかにあったのかもしれない。今となっては多くは語らないけれど……



 一四三〇・〇四七八……


 その数字は、そのエンドレスな数字は何をもって測定したのか? それは、それはそれはね、一応は身長を測定する機械……体重も一緒に表示されるけど、ともあれ僕では想像もできない高価なものだ。それは芸術棟の一階にあったもので、じっと見ていたら「使ってみる?」と、そっと背後から、令子先生は言ったのだ。ギクッとなった僕で、


 なんだかんだ言って傍らにいる梨花も、


「あんまり見ないでよ」とか言いながらも、僕と背比べ。梨花が見てほしくないのは身長ではなくて体重の方……だけど、表示は無情にもありのままを示して……いや、僕のせいじゃないから、そんなに睨まないでと、アイコンタクトも送りつつ。着ているものの重さとも思うかもしれないけど、僕らはもう何も身に着けておらず、生まれたまま。


 今はもう放課後という名の時間。令子先生のスケッチは、もうすでに始まっていた。



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