第百二十九回 されど覚悟は半分、あとはノリで君と僕。


 ――と、いうことだから、あくまで『気になった』というレベル。それ以上でも、それ以下でもなく、この間の……とはいっても、もう二十四日も経つ。


 僕が、ここを訪れ、

 芸術棟の二階にある広い方のお部屋の……開かずのドアだった向こう側のお部屋。


 この間と同じようにナチュラルな、

 大いなる窓から導かれる光の数々は、八分前の太陽からの贈りもの。



 今、ここが学園の敷地内で、午後が少し過ぎたばかりの……三時にも満たない一日の授業が終了したばかりの平日とは思えないようなホリデー的な要素たち。


 そして、まだあるの。


 その向こうが……この間は気付かなかったけれど、確かに存在する。大いなる窓の向こうには更なるスペース。お外へと出られるベランダともいえる野外スペースが……


 そこで思わす聞きたくなる質問。


 ――芸術棟って、誰が建てたの? という感じの質問を。でも、よくよく考えなくても学園内に存在するのだから、学園のもの……と、思いきや、何と、


「ここは、僕のセカンドルーム。

 ……だったんだけど、僕が海外で心臓の手術をする際に、学園に寄付したの。僕が帰って来られなくなって……でも、僕がここにいたこと、忘れてほしくなくて。残してもらってたの。……でも、帰って来ちゃったから、また僕のお部屋なの」


 つまり、令子れいこ先生の私物なのだ。……この芸術棟。


 さっきの、お話している途中で、令子先生は言葉が詰まって悲しそうな、何だか泣きそうな顔をしていたけど、でもすぐ、いつもの笑顔に戻った。……それにもう、このアトリエが明かされてから、すっかり一人称が『僕』に定着したようだ。


 その言葉の後には、スケッチ。いつの間にか令子先生は、僕を描いていた。僕がモデルになるならない以前に、令子先生は僕を描くことに、もう夢中になっていた。



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