第百一回 ……わかるよな、千佳。


 ――と、その言葉を残すものだから、僕は慌てて引き留めようとして、


「何で?

 こんな近くなのに……消えちゃうよ」


 触れたくても通り抜けてしまう、おじちゃんの体と僕の体。触ることができないの。


千佳ちかにはそう見えるんだね、

 ありがとうね、そんなに思っててくれて。……この先、どんなに辛いことがあっても絶対に、自分から死のうと思わないって、僕と約束してほしいんだ。……僕は、自分から死んじゃったけど、後悔してからじゃダメなんだ。……わかるよな、千佳」



 白色の光が弱くなるのに、比例して……

 おじちゃんの体が、薄く、景色と同化するように、透けて……


「やだ、消えちゃ。僕を……僕を一人にしないで」


 あまりにも残酷で、


 僕は、僕はおじちゃんに何もしてあげられなくて、涙腺崩壊して、泣くことしかできなくて……でも、おじちゃんは笑顔を浮かべていて、僕を包み込もうとしてくれて……


「こんな優しい子を、誰が一人ぼっちにするんだ? 梨花りかだって太郎たろう君だって……千佳の周りには、千佳を大切に思う人たちがいっぱいいるんだから、さあ、胸を張って」


「でも、おじちゃんが……一人ぼっちになっちゃうよお」


「千佳、ありがとうね。もう時間もないみたいだし、……でも心配ないよ、たとえ何処にいても、僕は千佳とずっと一緒、千佳の心の中にいるから、見守ってるから……」


 ……グスッ、


 消えちゃった。……僕は泣いた。思いっ切り泣いた。


 外から聞こえる雨音の調べは、いつの間にか消えて、……そしていつの間にか、泣き疲れたのか眠っていたのか、……それに気付いたのは朝、眩い光が差し込んで、


「千佳、もう起きないと遅刻だよ」と、その中に、ニッコリ笑う梨花を見た。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る