第十九章 そしてウメチカは、百回目を迎える。

第百回 それは今日この日、水無月の初日。


 ――つまりは古時計の鐘の音、午前零時の合図だ。これをもって水無月は六月。


 そしてその初日、

 ここから一日が始まった。古時計のもとに集いし、僕とおじちゃん。



 察しの通り、おじちゃんはもう、この世に存在……していなかった。


 もう三十八年も前にお亡くなりになっている。僕は、十三歳。……本当なら、この様に出会えるはずもなく、おじちゃんは写真のまま、僕が存在していることも、僕が姪っ子ということも知らずだ。……そう思うと、これは奇跡以外の何ものでもなく、


 しかも、今日初めてではなく以前も。……不思議だけど、そう思えるの。


 だから、あの日、

 去年のことなの。浴槽で手首を切って……何でなのかな? どうして切ったのか、わからないまま死んじゃうのかな? ……頭も真っ白、もういいや……その時だったね、


 ずっと僕の脳内に、

 おじちゃんが僕の名前を、僕の心を開いてくれて、


「……僕を、助けてくれたんだね」


「まあ、まあね、

 もう三十八年、僕はまだ幽霊のようで、そのお陰かな? 千尋ちひろや、千佳ちかを見守ってやれるんだ。……でも、僕には力がないし、見守る事しかできないけど、……でもな、そんなのは僕だけで充分。千佳は僕にとっては可愛い娘みたいなものだし、何より千尋を、もうこれ以上、悲しませたくなかった。……僕の時と同じ思いをさせたくなかったから」


 おじちゃんの目に、涙が浮かぶ。


「……何だか、ごめんね」


「こらこら、そんなこと言うな。子供はそんなこと考えるな。……千佳には、僕と同じ思いをしてほしくないんだ。今はもう、わからないだろうけど、きっと『もっと生きたかった』とか『もっとこうしたかった』とか……思うようになったら、ホント辛いから」



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