第八十五回 朝の光の中を、


 駆け抜ける、駆け抜ける。――ただ僕は駆け抜ける。


 無心になって。

 夢中になって。


 その中から見えるもの。それは決して策や、方法論ではなく……それ以前に、どちらも思いつかずに閃き……でもなくて、もっともっとシンプルな、身近にあるもの。


 この朝の光にも似たような……


 その光の中にも、その答えは見出せないまま、シャワーの飛沫。――まるで滝に打たれる修行のよう。なら、サウナにも入ってその上で……心は温泉へと行きたくて。


「ウウッ……」


 と、言葉にもならずに唸る。まるで野生の動物のよう……そこから、言葉に変換するのだよ、今の心境を言葉に――なので「温泉行きてえ!」と叫ぶ。髪もまだ濡れたままの浴室から飛び出したばかりのその姿……またしても全裸。一糸まとわぬまま玄関、その辺りで「ほれ」と声、差し出されるバスタオル。太郎たろう君は、もう傍らにそこにいた。


 ……驚きは隠せない。


 それから、素肌も同様に……これで何回目だろうか?


千佳ちか、温泉なら今度連れてってやるから、

 今はこれで体拭いて、髪も乾かして、ちゃんと服も着てから、PS4・5を起動させてから俺が、お前に新たな必殺技を伝授してやる。題して『ミラクル車輪』をな」


 ……と、優しい口調の太郎君。


 僕は、僕はね、ぎゅっと抱きつく……その、色んなものを忘れて、それから、それからね……チュッ! と、ほっぺにキス……問答無用で太郎君に。


「バ、バカ、お前っ」


「へへっ、昨日の仕返しだよ」


「とにかく、さっさと服着ろ。それ以上は、それ以上はだな……」


「で、どうなるの、それ以上は?」――と、ささやかに意地悪をする僕だった。



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