第五十四回 梨花、涙の言葉。


 ――それは、とても痛ましく、



 ……それでも、


「何で来たの? 千佳ちかまで連れてきて……来るなって言ったよね?」


 と、できる限りの力を込めて、可奈かなに文句を言う。……どうやら、お腹に力が入らないらしい、お腹が痛いのか? お布団の中で、お腹を押さえているのが容易に想像できる。


「だって明け方にも拘らず、梨花りかが電話で……

 とても痛そうに、『血が、血が……』って、泣き声で言うから。で、それでもって『どうしたの?』って何回も訊いてるのに、答えてくれなかったからじゃない」


「……だって、恥ずかしいから」


 と、その言葉通りの表情に、梨花はなっていて……って、ええっ? 血が出た、つまりは『出血』……それに加えて『恥ずかしい』&『腹痛』……お腹が痛い、下腹部」



 ――初潮。


 そのワードが脳内を過った時、……美津子みつこママからも同じワードを耳にして、僕はヘナヘナ……っと、体の力が抜けて、それとは反比例に込み上げる怒り……でも、それ以上に涙がこみ上げ、号泣の域に達してしまって、


「千佳?」と、こちらを見る可奈に続いて、同じく「千佳?」と、キョトンとする梨花に対して……号泣の域に達しながらも、僕は、


「梨花のバカ! どんだけ心配したと思ってるの? もし……もしもだよ、ウイルス感染だったら、もう会えなくなるんだよ? 僕を……僕を一人にしないで!」


 ――自分でも驚くほどに、そう怒鳴っていた。


 ……梨花は、


 梨花は涙を零しながら、そっと上半身を起こして、そっと……僕を抱き寄せて……「千佳、ごめんね。一人にしないから、ずっとずっと一緒だから……」



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