十二皿目:最終話
それは秋口、毎年恒例の味噌づくりをしている時だった。
「ねえ、なんで家は毎年こんな面倒なことするの? お味噌なんか買ってきた方が安いし、出汁入りなんて簡単でいいじゃん?」
私は耳たぶのやわらかさになった大豆を茹でたものをミンチ機でつぶしていた。
「んー、まあそう言われりゃそうだけど、はっきり言って本物の味を知らないってのは良くないと思うんだ。中には本物より既製品の方が美味しいものもあるけどそれって本物の味じゃないだろ? 本物の味を知っていてそう言ったもの食べるならまだいいど、本物を知っていないと『味』なんて判断基準がどんどん変わっちゃうからな」
私がそう言うと手伝いで麹をバラバラに砕いている みさき は首を傾げた。
「美味しければ別にいいんじゃない?」
「まあ、そうんなだけどさ、家って外食少ないだろ? こないだ久しぶりにファミレス行ってショック受けたんだ」
みさき は手を止め私の顔を見る。
「何言ってやがるんだ、こいつ!?」と言いたいのがその表情から読み取れる。
私は苦笑して話を続ける。
「あのファミレスのハンバーグさ、工場で大量に作っているやつで実は某コンビニに売っているものと中身が同じなんだ」
「え? なにそれ? お店で作っているのじゃないの!?」
「個人経営店じゃないから工場で一気に作ればコストも安くなるし衛生面も保存面もよくなる。真空パックの冷凍品が各チェーン店に送られてきてそれをレンジでチンして焼いたプレートに乗せてちょっと両面焦がせば出来上がり。確かに効率的で速いし安いし味も悪くはないよ。だけどそれって楽しい食事になる?」
みさき はしばらく私の顔を見ている。
「あたしにはあんたがいるからどうでもいいや!」
などと言いやがる。
私はため息をついて作業を進める。
* * * * *
「お腹すいたぁ~」
「悪い、時間がないから簡単なもんでいいか?」
「いいよぉ~」
私は昨日精米機で精米し終わった白米が炊きあがっているのを確認しておにぎりを作る。
一つは具を入れないおにぎりで握り終わったら表面に昨年作った味噌を塗る。
もう一つは具に自分で作った梅干を入れる。
そして出来上がったおにぎりを みさき に渡す。
みさきは自分でお茶を入れてそれを食べ始める。
「ん~♡ おにぎり美味しい」
「どうせお前の事だからコンビニの握り飯でも同じこと言うんだろ?」
私は笑いながらそう言って仕事に行く準備をする。
すると みさき はおにぎりを見ながらぽつりと言った。
「違うよ、分かるよ、これって自分で作った味噌と梅干だよね?」
それだけ言ってまたもぐもぐと食べ始める。
私は一瞬 みさき を見たが時間なのでそのまま仕事に出かける。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
みさき が珍しくエプロンをしている。
一体どう言う風の吹き回しだ?
「とりあえず簡単なもの教えてよ」
「何が起こった? お前からそんなこと言ってくるなんて雨降るぞ!?」
「ん~、あんた海外出張増えるじゃん。あたしのご飯作ってくれる人いないんだもん、自分で何とかするしかないじゃん?」
先日人事移動で海外担当に回され月一で海外の事務所に出張が決まってしまっていた。
せっかく見つけた仕事だし、駐在じゃないから仕方なしに受けたわけだけど結果 みさき に負担がかかった。
しかし みさき は みさき なりに考えてくれていたようだ。
ならば‥‥‥
私はエプロンをかける。
みさき でもできる餌付けの品を作ろう!
本日はこれ。
<みさき でも作れる料理?>
出張が大体一週間なので簡単かついろいろなレパートリーを考える。
1、なんちゃってネギトロ丼。ご飯をおわんによそる。それにマヨネーズを薄くかける。鰹節をまんべんなくふりかけ、万能ねぎを調理ばさみで切ってふりかける。そして溶きわさび醤油をかけて完成!
2、ホットサンドピザトースト。八枚切りのパンにマーガリンを塗ってホットサンドの器具に乗せその上にピザソース、とろけるスライスチーズ、おやつカルパス、万能ねぎ少々を調理ばさみで切って食パンでサンド。その表面にマーガリンを塗ってふたを閉め、火をつける。ガスコンロの過熱警告音に注意してぴぴぴっとなったら裏返す。しばらく待って同じくぴぴぴっとなったら火を止めてお皿に出して完成。この警告音が鳴るくらいがちょうど好い焼き上がりになる。
3、ちゃんぽん風煮込みうどん。片手鍋にお湯を沸かし、もやし、キャベツニンジンを手でちぎったりスライサーで切ったりして入れ煮る。ちくわも調理ばさみでなるべく薄めに切るそして鍋に入れる。白だし、鶏ガラを入れてひと煮え立ちしたら冷凍うどんを入れ、よく煮えたら出来上がり。お好みで白コショウやお酢を入れても美味しい。
4、ソースカツどん。近くのスーパーで夜半額になる揚げ物をゲットしておく。これはとんかつ、ハムカツ、チキンカツ、メンチカツお好みで。オーブントースターでこれらを軽く五分くらい焼く。その間に器に醤油、ウースターソース、トマトケチャップ少々、お砂糖少々を入れラップをしてレンジでチンする。どんぶりにご飯をよそってカットキャベツを敷いて先ほどのレンジでチンしたたれの中に焼き上がった揚げ物をさっとくぐらせてから乗せる。刻みのりをぱらぱらかければソースカツどんの出来上がり!
5、マカロニトマト煮込み。片手鍋に野菜トマトジュースを入れ、牛乳少々、塩コショウ少々、コンソメ小さじ一杯入れて火をつける。沸騰が始まったらマカロニを投入。コトコト煮込んでマカロニが柔らかくなったら乾燥バジルを少々入れて火を止める。そしてとろけるスライスチーズを一枚入れて溶け始めたらお皿に盛る。見た目重視の乾燥パセリをパラパラとすればマカロニトマト煮込みの出来上がり。
6、水餃子。片手鍋に水を入れ、コンソメ、白だし、醤油を入れて沸騰させる。そこへ手で小さめにちぎったキャベツ、スライサーで切ったニンジン、玉ねぎを入れてひと煮え立ちさせる。味見して薄かったら醤油を入れて調整。中火弱に火を落として100円ギョーザを投入。ひと煮え立ちしたら出来上がり。おわんによそって好みでごま油やラー油を垂らしても美味しい。
と、一気にこれだけ作ったが全てハーフサイズでやったので二人なら何とか食べきれるだろう?
作り方は動画で撮ってあるからあとでパッドに入れておけばいつでも見られる。
「う~ん、まあ何とかできそうかな?」
並べられた六品を前に みさき は尻尾を振りながら見ている。
「本当はもっとじっくりすれば美味しくなるけど、簡単に作る方法としてはこういったモノがあるよ」
「じゃあぁ、早速味見といきましょうか♪」
二人手を合わせて~
「「いただきます!」」
私は みさき が食べる様子を見る。
「おお! どれもこれも十分美味しいぞぉ!! これ、あのとうり作ればあたしにも出来るんだよね!?」
「ああ、わざと包丁を使わないようにしたから簡単だろう?」
「うん、これなら何とかなりそう!」
笑顔であれこれとつまみ食いする みさき 。
ま、とりあえず笑顔だし慣れればこれくらい作れるだろう。
私は安堵の息を吐く。
「どうしたの? 食べないの??」
「いや、お前さんの食べる姿を見て安心していたんだ。正直味的には今一歩だったはずなんでな」
「そんな事無いよ、美味しいよ?」
そう言ってまた笑顔で答えてくれる。
私も思わず口元に笑いが出る。
「ならもう安心だ、俺がいなくても作れるだろ?」
「それはだめだよ、あんたがいなければ作れないよ‥‥‥」
はぁ?
さっきできそうだって言ってたのに?
「あんたがいなきゃ、子供作れないもん////」
「うぉいっ!!」
「ね、だから頑張ってね、あ・な・た♡」
思い切りとびきりの笑顔でそう言ってくる。
まったくこいつは‥‥‥
私も笑いながら料理に手を出す。
さてさて餌付けはうまく行っていただろうか?
いや、私の方が「みさきの笑顔」に餌付けされていたのではないだろうか?
~君の笑顔の為に私は今日もエプロンをかける~
これからもずっとそうなるだろう、そして将来はその笑顔の数も増えていくだろう。
そしていつもの笑顔でお粗末様でした!!
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