十皿目


 一体何が始まったのだ!?



 私は私が見ているものが信じられなかった。



 あ、ありのまま今起こったことをを話すぜ。

 目の前に みさき がエプロンして何か作っている画像が現れやがった。

 何を言っているのか分からねーと思うが、私も何を見たのか分からねぇ。



 いきなりSNSの画像で送られてきて、エプロンなんかしているからきっと「裸エプロンだよ~♡ 早く帰って来てねぇん☆彡」くらいの冗談と決めつけていた。


 しかし、その画像には自ら何か食事を作っている光景が!?


 信じられない!

 数回に分かれて送られてくる動画は確実に何か作っているようだ!?

 レトルトやインスタント物以外でちゃんと料理をしている!?



 私はUMAや未確認飛行物体、はたまた心霊現象でも見るかのようにその動画を見入った。



 『今日はなんとあたしがあたしの為に料理をしま~す! あのね、【宮草はつか】さんて人のエッセイ【美味しくない料理の作り方】ってのを読んで感動したの! あたしだってあたしの為にお好みの食べ物作れるぞ! だからその雄姿を動画で送ってみるね!』


 そう言って何やら料理を始める。

 途中で一回スマホを落として画面がすごい事に成ったがちゃんと固定位置にとりつけた様で手元中心で動画が始まる。



 みさき はエプロンをかけ自分用の餌付けの品を作り始めたのだ!



 

 本日はこちら!


 < みさき が自分で作った何か!?>



 1、どうやらパイか何かの生地だろう、筒から取り出してオーブンのプレートに広げながら乗せている。ちょっと待てよ、せめてクッキングシートひかないと‥‥‥  みさき はそのまま塩を振りかけオーブンに。そして焼きあがったものを取りはがそうとして‥‥‥  案の定焦げ付いているw



 2、あらびきウィンナーをフライパンに入れて火をつける。 おいおい、少しは油ひかないと! なんて思っていたらやっぱり焦げた。こまめに裏返していないからある一面だけがっつり焦げている。 しかもあらびきウィンナーなので焼けたかどうか確認の為顔を近づけた時に丁度熱でウィンナーの皮が弾け中から油が出て熱せられたフライパンではじけるからそれで驚き、足を何処かにぶつけたらしい。 焦げるウィンナーそのままにしばらくうずくまっているw



 3、片手鍋に牛乳を入れて火をつける。しかし強火のまま。しばらくして案の定一気に吹きこぼれる。慌てて火を止めるけど今度はカップスープの袋の粉を入れる。しかししばらく放置してからかき回している。ありゃぁ玉になるな‥‥‥



 4、カット野菜を袋から出している。しかし先に千切りキャベツをお皿にいれてからカットレタスを入れて首をかしげている。何を思ったのか別のお皿を持ち出し一気にひっくり返して野菜を新しいお皿に乗せる。勿論いろいろとこぼれる。そして焦げたウィンナーをそこに載せるが一旦載せてから焦げ目を裏にして焼けてるかどうかよく分からない面を上にする。


 5、苺を持ち出し洗っている。まあ、これはだ丈夫だろうと思っていたら洗いながら葉っぱを取ろうとして手を滑らせガチャガチャと。何とか苺を振って水を切り先ほどのウィンナーが乗っているお皿にのせる。



 そしてどうやら食事が完成したようだ。

 いったんここで動画が終わって次へと。


 画面が変わって先にインスタ気取りの写真が送られてくる。



 ‥‥‥



 ま、まあ、独創的と言うかなんというか。


 お皿に盛りつけられたバランスの悪い野菜の上に焼けているかどうか怪しい感じのウィンナーが並び、その横に色合いとビタミン補給の葉っぱ無し苺が乗っている。


 横にはクラッカーが割れたような感じで積み重なれた素焼きのパイ生地。


 そしてカップスープの粉がクルトンの様に固まっていそうなスープが横にある。



 そして次の動画へと。


 『できました~♡ あたし特製の朝ごはん! どう、あたしもやればできるでしょ?』


 そう言って手を合わせ「いただきま~す♪」と言って上機嫌に食べ始める。



 まずは素焼きのパイ生地。


 これはまあ、多分普通に食えるだろう。

 何せクロワッサンも作れる奴のはず。

 塩を振っていたようだがジャムでもつけて食べた方が旨いだろう‥‥‥


 みさき はそれをぱくりとかじってしばらくして画面から消えジャムを持ってきた。

 思わずうなずいてしまう。

 ジャムをつけると美味しそうに食べ始める。

 きっと栃木に出張した時のお土産で買った「とちおとめジャム」がおいしかったのだろう‥‥‥



 次いでスープにスプーンを入れて飲み始める。

 一口飲んでその手が止まる。


 『うえっ! これクルトンじゃない? え? 粉溶けてないの??』


 画面向こうからそんな声が聞こえてきた。

 私はここでも思わずうなずく。



 そして最後に手を付けたのはあらびきウィンナーのお皿。


 いきなり横にあるトマトケチャップをかける。

 そしてフォークでウィンナーを刺し口へ。


 かじってもごもごしてウィンナーを見る。

 そして首をかしげてもう一度多めにケチャップを付けてまた口に運ぶ。

 

 こいつ、ケチャップの味で誤魔化しやがった‥‥‥


 マヨネーズを出し野菜にかける。

 この辺はまあ、普通だなと思ってみてたら大量にマヨネーズをかける。



 おいこらダイエットどこ行った!?


  

 しかし当人はお構いなく食べ進んで行く。

 途中に変な声上げたり、あーとか言いながら。



 『ま、まあ今日の所はこれで許してあげるわ! 一応まあまあの味だったよ』



 目線が泳いでいる。

 しかし私が出張中に自力で何か作ろうとするのは良い傾向だ。

 その宮草はつか先生のエッセイ、「美味しくない料理の作り方」という作品も後で拝読させてもらおう。



 私がそんな事を考えていたら動画のみさきが「ごちそう様」していた。


 そして口の横にケチャップがついているのに気付いたようで周りをきょろきょろしておもむろにエプロンを持ち上げて口を拭くのだが、私は慌ててここでスマホのスイッチを押して画面を暗くする。

 周りをきょろきょろ見てから誰もこちらの画面を見ていなさそうなので安堵の息を吐く。


 そして残りのカレーパンを食べきって急いでトイレに行く。

 個室に入り、先ほどの動画再生。



 『へっへぇ~、見えたぁ? うれしいでしょ? 裸エプロンだよぉ~♡ 早く帰って来てね、続きはベッドの上で待ってるからねぇ☆彡』



 途中から猫カチューシャまで頭に乗せてにゃんこのポーズをとる。


 うちはクラウド嫌いなのでそのサービスは受けていない。

 しかし私はSNSのメッセージで解くと危険性を書き込ん二度とこういう動画を送りつけないよう注意する。


 以下そのやり取り一部抜粋。


 ***********************


 みさきR:おいこら、これやばいぞ! 顔出しでそんなモン送ってきたらどこで見られるか分からないぞ!


 みさきS:クラウド参加してないから大丈夫でしょ?


 みさきR:データ通信時にどっかに一時保管されたら終わりだ。 

 

 みさきS:大丈夫でしょ?


 みさきR:分から無いよ、アッ〇ルだって個人情報の取り扱いと称してどっかでデータ収集してるから。


 みさきS:マジですか!?


 みさきR:マジだ。


 みさきS:やばっ!


 みさきR:もっとやばいのはまだダイエットに成功していないお前の裸だ!


 みさきS:(・∀・♯)


 *************************



 この後すぐに電話がかかってきたのは言うまでもない。

 トイレの個室でしばし言い合いする羽目になる。




 今日もお粗末なお話で、お粗末様!! 


 

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