八皿目


 「ううんっ、おっきいぃ~ だめぇ手に収まらないよぉ~」


 「すまんが普通にやってくれないか?」


 「だってぇ、あなたがこんな事させるからぁ、あたし困っちゃうぅ~」



 私は大きなため息をつきながら持っていた人参を置く。

 そして みさき のこめかみに拳を両方から当てぐりぐりする。



 「いだだだだだだだっ! 分かった、やる、やるから止めてぇ~っ!!」





 本日の品はこちら!



 < みさき に作らせるカレーライス> 


 

 学校の家庭科でもやる基本中の基本、カレーライスだ。

 流石にこいつの女子力の低さに頭を悩ませこのくらいは作れるだろうと教え始めたのだが‥‥‥



 エロいこと言いながら現実逃避しやがる!



 いい加減やめさせないと大まかにカットした人参を「こんなにおっきいのお口に入らなぁ~い💓」とか具材を煮込みながらかき混ぜると「ああん、もっとぉ、もっとかき回してぇ!!」とか本気でご近所に聞かれるとまずい言い方で言い始めるだろう!!



 まったくこいつときたら‥‥‥



 頭を押さえて涙目の みさき を見る。

 

 「わかったら大人しく人参の皮むけ」


 「やだ、皮むくなんて! でもあんたかぶってないよ?  ‥‥‥いだだだっ! ごめんやるっ、やりますからこれ以上は止めてぇっ!!」



 今度はアイアンクローをかます。


  

 そして皮むき器で人参とジャガイモの皮をむかせる。


 「あたしだってちゃんとこの位出来ますよーだ」


 「だったら変な事言ってないで大人しくやれ!」


 「なによ、あたしがああいう事言うの嫌いなの?」


 「そうじゃねーだろ! こんな真昼間からご近所に聞かれたらどーすんだ!?」


 そんなやり取りをしながら皮をむく。

 もしこれが出来なかったら小学生以下の認定だ!



    

 1)、材料カット。皮をむいた人参やジャガイモを一口大にカットさせる。この時乱切りでカット面が複雑で多くするようにさせる。こうすると味が染み込みやすくなるからだ。


 「ちゃんと猫の手で切れよ? ああ、そうじゃないっ! 誰が猫カチューシャして女豹のポーズとれと言ったぁ!?」


 「にゃん?」



 2)、鶏胸肉の皮を取りこれも一口大に切らせる。


 「うう、切れにくい‥‥‥」


 「肉は切れにくいから包丁を引きながら切るの、って、誰がギター弾けって言ったぁ!!」


 「だって弾けって‥‥‥」



 3)、玉ねぎの皮をむく‥‥‥


 「よおぉし、ここでまた皮むきのネタやったらしっぺだからな!」


 「大丈夫! 玉転がしするだけっ! ‥‥‥いったぁああぁい!! 本気でしっぺしたぁ!!」




 4)、玉ねぎを切る。


 「流石にここではボケられないだろう‥‥‥」


 「ねえ、中国の宦官って知っている?」


 「やめて、それは痛すぎる‥‥‥」




 5)、フライパンに油を引き鶏肉や野菜を炒める‥‥‥


 「炒めるのは簡単だろ?」


 「そうね、夜まで待たなくても今ここでやって あ・げ・る💓」


 「でもその首輪と鎖と鞭はしまおうな、今使うもんじゃないから!!」



 

 6)、炒めた具材を鍋に入れ水ひたひたに入れたら火をつける。


 「あん、もうびしょびしょに濡れちゃたァ~、どうにかしてぇえぇん~」


 「いいからこぼした水拭きなさい。ガスコンロの周り水浸しじゃないか!!」




 7)、隠し味で牛乳を入れてさらに煮込む。



 「あ~ん、白いのだ~い好きぃ💓」

 

 「‥‥‥」




 8)、煮込み終わったら一旦火を止めてハ〇スバーモ〇トカレーのカレールーを割っていれる。


 「ああ、硬いのが入ってくるぅ! もっとよぉ、もっと入れてぇ!!」


 「だから規定以上入れるなよ! しょっぱくなるだろ!!」




 9)、再び弱火でとろみが出るまでかき混ぜて煮込む‥‥‥



 「もうトロトロよぉ~ もっと掻き回してぇ~」


 「混ぜすぎると煮崩れするからね、ほどほどにしなさい」





 そしてカレーが出来上がった‥‥‥



 「何故だ? なんでこんなに疲れるんだ!?」


 「んー? あたしは楽しいよ?」


 そんなこと言っている みさき をしり目に炊飯器に目をやって絶望する!



 「おまっ! また炊飯器のスイッチ入れ忘れてるぞ!!」


 「ありゃ?」



 * * * * * 


 

 待つこと三十分強。

 早炊きでご飯を炊く。


 そして炊き上がったら蒸らしてからかき混ぜてもう一度蒸らす。



 「なんでそんなに何度も蒸らすのよ?」


 「こうするとお米の水分が均一になって美味しくなるんだよ」


 「ふーん、めんどくさい」


 「だからってレトルトご飯チンしようとするのやめような、もうじきできるから!!」


 みさき からレトルトご飯を取り上げしまう。

 そして炊き立てのご飯をお皿によそって出来ていたカレーをかけ、冷蔵庫の福神漬けを添えて出来上がり!



 「おー、カレーだカレーだ!!」


 「これならお前でも作れるだろう?」


 「大丈夫、駄目だったらレトルトカレーのストックがある!」


 「やめなさいっ!!」




 あまりのやる気のなさにため息をつきながら手を合わせて



 「いただきます‥‥‥」


 「いっただきま~すっ!」



 早速カレーとご飯をスプーンですくって口に運ぶ。


 うん、安定のご家庭カレーの味。


 いろいろなカレールーが商品として売られているけど、やっぱり家で食べるならリンゴとはちみつとろ~り溶けてるカレールーが一番良い。

 昔からの安定の味。



 「うおっ! お母さんの味だ! あたしはとうとう母の味が出せるようになったか!?」



 ごめん、今は突っ込む元気もない。

 しかし みさき はこちらを見て突込みを待っている。



 「明日から出張だから当分お前ひとりでカレー処分しろよな‥‥‥」


 「なっ! 無理っ!! お鍋いっぱいあるんだよ! あたし一人じゃ無理だって!!」


 「大丈夫、インスタントのうどんに入れてカレーうどんにも出来るし、トースト焼いてそれにカレーのせれば簡易カレーパンになるし、スパゲティーチンしてカレーかければカレースパゲティーになる」


 「あたしに三食カレー漬けにしろとっ!?」



 私はニヤリとしてタッパーを出す。



 「まあ喰いきれないなら冷凍にすれば一週間くらいは大丈夫だ。私が出張から帰ってきてもまだ食えるからな。冷めたらタッパーに入れて冷凍保存するよ」



 私のその物言いに安堵する みさき だったが、反撃に出てきた。



 「そう、華麗カレーに言い回ししたつもりでしょうけど、今晩は私があなたに辛いカレー思いをさせてあげるわ! 加齢カレーで疲れていても許してあげないからね!!」



 「誰が上手いこと言えと!?」



 「さあ、とっとと食べなさい! 首輪と鎖は準備済みよ!!」


 「ひえぇえええぇっ!!」




 そして今日も笑顔じゃなくてお粗末様っ!!



 

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