七皿目
「ラーメン屋の無料餃子券ゲットしたぁ!」
玄関先で声高々に みさき が手にしたチラシを掲げている。
あからさまにハイテンション。
「ラーメン屋って、どこだよ?」
「お〇ぎやラーメン!」
私は考える。
久しくラーメンも食っていない。
しかもそのチラシのラーメン屋はチェーン店でありながら店によって微妙に味が違う。
既に私の頭の中はどの店か検索中であった。
国道店:ラーメンはうまいがサイドメニューのもつ焼きが最悪だ。
バイパス店:肝心の味噌ラーメンがあっさりタイプ。サイドメニューは美味い。
高速道路入り口店:チャーハンがめちゃくちゃうまい店。しかし肝心のラーメンがダメダメ。
住宅団地入口店:全体的に特筆する事は無いがここだけはご飯お代わり無料でふりかけもかけ放題だ。
最近 みさき のお菓子やジュースの暴食暴飲で懐が厳しい。
みさき の持つチラシを掴んで見る。
「ラーメン一杯につきおひとり様餃子一人前無料」
どうやら店の制限は無い様だ、どの店でも使えるのか‥‥‥
みさき を見ると思い切り尻尾を振っている。
消費税10%込みで考える。
まあ、何とかなるか。
「よし、じゃあ今日は久しぶりにラーメン喰い行くか!」
「やったぁー! 帰りに本屋にもよろうよ、いいでしょ?」
本屋ならば仕方ない。
私は快諾してかばんを置き外出準備をする。
みさき は既に化粧も済んでいて外套を着こめば見た目はまあまあな感じになっている。
小さなかばんを肩にかけ、わざわざ靴箱からこぎれいな靴を出す。
「ラーメン喰い行くだけでずいぶんとおめかしするな?」
「いいじゃん、あたしがきれいな方があんただって嬉しいでしょ? 喜べ、隣を歩く女があたしで!」
そう言って自己申請Dの胸を張る。
服のせいか今日はちょっとはっきりと見える。
これが夜景がきれいなディナーならいい雰囲気にもなるのだろうが。
ラーメンなんだけどな‥‥‥
しかし みさき はそんな事一切気にしないで久しぶりの外食にウキウキして車に乗り込む。
私は苦笑しながら車の鍵を握りしめたのだった。
* * * * *
「うわっ、並んでる!?」
餃子の無料券が有るので国道店に来てみた。
多分同じラーメンならここが一番うまい。
サイドメニューがいまいちだが、餃子は難なく食えるはず。
順番待ちの紙に名前と人数を書いて順番待ちの椅子に座る。
「そう言えばなんでうちではラーメン作らないの?」
「ラーメンほど手間がかかりそしてコストパフォーマンスが悪いもんは無いんだよ」
「え? だってスーパー売ってる美味しいラーメンて結構いけるじゃん?」
私は時間もあるので少し語ってみた。
「そもそもラーメンの歴史は浅く、戦後六十年くらいの間に発展した食べ物なんだ。今は全国にいろいろなラーメンがひしめき合い競争が激しいジャンルでお手頃価格でありながら過度な化学調味料使用や工場生産をしない店は本当に大変なんだよ。豚骨なんかほとんどガス代だもんな。その代わりその店でしか味わえない至高の一杯が有るのもラーメン屋でスーパーなんかのとは比べ物にならないほど美味いんだよ」
みさき は「うーん」とか言いながら更に聞いてくる。
「でもカップラーメンとかで行列のできる店とか有名店監修のコラボラーメンがあるじゃん? あれ結構おいしいよ?」
「カップラーメンとしてはな。しかしやはりこういった店で食うラーメンは一味も二味も違うだろ?」
そうだっけ~とか言いながら次のお客様で呼ばれたのでテーブル席に着く。
早速メニューを見る。
「うおっ、期間限定だって! あ、こっちも美味しそう! まる得セットなんてのもある!!」
本当に残念な奴だ。
そのなりで淑女然としていれば大人の女なのにな‥‥‥
はしゃいでいる分お子様になっている。
私にだけ見える耳と尻尾は喜びに最大限に耳を立て、ちぎれんばかりにふっている。
「確かここは無料でご飯の小がつくから、半ライスは要らないな?」
わたしは既に餃子が有るのでセットメニューのもつ煮にする。
みさき は結局この店一押しの味噌ラーメンにバターとチャーシュートッピングをする。
「そう言えばラーメンって日本語?」
「いや、もともとは中国語、日本人に『拉麺』て漢字の言葉が『ラーメン』て聞こえたのが始まりらしい。特に中国東北に当時沢山の日本人が行っていて、そこで作り方覚えてきたのが今のラーメンの始まりだよ。昔は中華そばとか言ってたもんな」
「中華そばは聞いたことあるね。そうすると本場のラーメンはすごく美味しいんだろうなぁ~」
中国に行った事のある身としては何とも言い難い。
本場中国のラーメンは大まかに分けて三つくらい。
1)、北の手伸ばし『拉麺』:中華街なんかでもやっている手で麺を伸ばすやつ。感覚的にはこれが日本のラーメンに一番近いかな? ただし塩ベースの牛肉スープが基本。「蘭州拉麺」で検索すると出てくる。パクチーが入っているので人によっては苦手かも。それとこの麺を包丁見たいのでそぎ落とすのは「刀削麺」と呼ばれていてこれも中華街で食べれる。
2)、上海を含む上海デルタ地帯の『湯麵』:蘇州辺りはしょうゆベースもあるので日本人にも馴染み深いかも。但し麺は日本で言う乾燥うどんみたいな感じ。ラーメンと言うよりもうどん喰っている感じ。
3)、香港とかである「竜髭麺」:焼きビーフンのような細い面。ちょっと独特な香りがあるので人によっては苦手かも。スープは中国の中で一番おいしいと思う。魚介の貝柱や蝦、それに鶏がらスープでかなり美味しい。日本よりは全体的にさっぱりだけどね。
とまあ、大体こんな感じだが本場中国のラーメンは日本のラーメンと全く別物と言った方が良い。
どこかのブログで書いてあったと思うけど日本のラーメンは既に起源は中国でも「日本食」に分類されるレベルだ。
アメリカの寿司バーにあるキャリフォルニア巻きなんて目じゃないほど別物。
ただし、それをわかっていて中国でも別物として食べるとそこそこ行けるものもある。
と、そんなうんちくを言っていたら頼んだ品が来た。
「おおー、美味しそう! いただきまーす!!」
みさきはさっそくチャーシューを取ってぱくり。
もしゃもしゃ咀嚼して飲み込む。
「やわらかい、おいしい! さてバターを溶かしてっと♪」
「せっかくだからバター溶かす前の味も楽しんでおきなよ」
私がそう言うと「おおっ」とか言いながらバターが溶け込んでいないところを味わう。
「うん、しょっぱめだけどそれが美味しい!」
そう言って今度こそバターを溶かし始める。
私も自分の味噌ラーメンにとりかかる。
まずはスープ。
ここの店は豚骨も混じっているので濃厚な味噌の味が楽しめる。
ゆでたもやしの上に載っているおろしにんにくを崩してスープに溶け込ませる。
うん、これも旨い。
後でちょっと匂いが気になるけど車の中に口臭予防のガムが有ったはず。
なので気にせずどんどん行く。
ゆでたもやしがしょっぱめのミソスープによく合う。
途中で胡椒で無く唐辛子を入れる。
とたんにピリッとしたアクセントが全体を引き締めてくれる。
さて、麺に行ってみようか。
注文時に硬めにお願いしていたのでゆっくり食べても最後までふやけないだろう。
中太のゆるいちぢれ面を引っ張り出しすする。
うん、これも旨い。
ほど良くかん水が効いていて麺の風味もしっかり出ている。
やはりここの味噌ラーメンはチェーン店でありながら旨い。
サービスライスを口に運んでからミソスープを口に入れる。
外ではお行儀悪いのでこっそりするのだが、しょっぱめのミソスープにご飯がよく合う。
次いでセットのもつ煮を箸で取る。
やわらかく煮込まれたもつがあっさり味でいい感じだ。
途中でこれにも唐辛子をかけごはんと一緒にいただく。
この地域はもつ煮定食なんてのもあるので他県の人から驚かれる事も有るがご飯のおかずとしても結構いけるのである。
そして無料チケットで運ばれてきた餃子にも手を伸ばす。
さっと全体にお酢をかけてから餃子のたれをつけて食べる。
にらが効いていて旨い。
これもご飯と一緒に行ける。
と、麺が伸びるのでラーメンに戻る。
そろそろ味変かな?
私はおもむろにお酢をさっと味噌ラーメンに入れる。
すると元々豚骨も入っているので濃厚な味わいだが少し油っぽい感じがさっと解消される。
口当たりも心なしかまろやかになって濃厚過ぎず、さっぱり過ぎずになる。
そのまま最後まで美味しく頂く。
ふと みさき のラーメンのバターが溶け込んだミソスープが気になる。
「一口くれ」
そう言ってレンゲで みさき のスープをすくって口に。
とたんに広がるバターのコクがある風味!
味噌バタラーメンが人気なのがうなずける。
「美味しいでしょう? バタートッピングしなかったことを後悔するがいい」
したり顔だがこれは一口で十分。
ずっとバターの濃厚な味はちょっと苦手だ。
そして最後まで食べ終り完食へ。
「いやー、食べた食べた。久々のラーメン美味しかった~」
お会計を済ませポイントカードにハンコウをもらう。
ちょうどいっぱいになって次回餃子一皿サービスになった。
「喜べ、また餃子一人前無料になったぞ」
「おおっ! じゃあまた来よう!!」
嬉しそうにする みさき 。
そんな彼女の笑顔を見ながら本日もお粗末様でした!
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