六皿目
「私は今、基本的 みさき の権利を主張する!」
帰ってくるなり みさき が腕を高々と上げて何やら主張を始めた。
「お菓子は心の癒し、そしてあたしの活力だ! 私 みさき は基本的権利の主張をする! お菓子を食わせろ! 今月のお菓子購入を認めろぉ!!」
無視して玄関に釣り竿とクーラーボックスを置く。
その他車の鍵や諸々も置いて玄関先でどこかで仕入れてきた段ボールの上で高々と宣言している みさき を放置してクーラーボックスだけもって台所に向う。
「ちょっとマテ、無視だけはしないでぇ~!!」
「ええぃ、放さんか! まだ帰ってきて手洗いうがいしてないんだよ!」
よほどスルーされたのがこたえたのか耳を立て尻尾を思い切り振って絡んでくる。
そんな みさき を押しのけ、洗面所で手洗いうがいをしてからもう一度クーラーボックスをもって今度こそ台所へ。
「やっと帰ってきた! つまんない、お腹すいた、お菓子底つきた、なんか食わせろぉ~!!」
完全に駄々っ子になっている。
いい年してからに‥‥‥
「これからうまいもん食わせてやるから大人しくしてろよ!」
「で、それ何?」
「釣ってきたカサゴとメバルだよ。会社の人と付き合いで釣り行ったって言ったろ?」
「なっ!? まさか釣れたの!? お魚市場で仕入れて来たんじゃないの!!!?」
「そうか、新鮮な魚は食いたくないと言うのだな?」
みさき はわたしの背中にしがみついてきてまた駄々をこねる。
「食べる! あたしを餓死させる気かぁっ!!」
丸いもの二個が背中に押し当てられ、ちょっと大きくなったかなと感じながら みさき を見る。
「お菓子喰い過ぎて太ったろ?」
「うっ!? 何故わかる!?」
「そこは企業秘密~♪」
ちょっと得した気分だが、みさき を捕まえて腕を取り曲げさせる。
上腕の下を触ってみてたぷたぷを触ると みさき が顔色を変えて飛び退く。
「なんて事をするっ! そんなことしたらへこむだろっ! 鬼か!!」
「分かっているならお菓子を控えんか!!」
「くそうっ! いいもん、 永遠❆氷食少女ちゃんに慰めてもらうんだもん!!」
確かカクヨムの女子中学生作家先生だったな‥‥‥
いつの間にそんなに親しくなっていたんだ?
そんな事を思いながらクーラーボックスを開ける。
ブクブクと水の中に泡が立っている。
見ればまだ元気に生きている。
「なにそれ? あ、まだ生きてんの!?」
「新鮮なのが食いたかったからな、ブクブクつけていたから死なないでここまで持ってこれたんだよ」
私はそう言って電源を止める。
泡はぴたりと止まってクーラーボックスの中の魚が良く見える。
「どれどれ、全部で‥‥‥ 六匹!」
「カサゴが五匹、メバルが一匹な。カサゴは小さいから、から揚げか素揚げにしよう。メバルは二十センチくらいあるから煮つけにするか」
私はそう言ってエプロンをかける。
餌付け用の品を作り始めよう!
今回はこれ。
<カサゴのから揚げとメバルの煮つけ>
1、 まず最初に白米とみそ汁をさっと作る。ご飯は炊飯器で準備して早炊きをぽちっと。みそ汁は片手鍋にお湯を沸かし かつおだし、いりこだし、そして会社の弁当で昼飯に付いて来るインスタント味噌汁(生タイプ)を入れてから一旦沸騰させる。これでインスタントみそ汁のアルコール臭が消える。豆腐と乾燥カットわかめを放り込んで味見。まろやかさを出すために隠し味で牛乳をちょびっと入れて醤油を垂らす。
2、生きたカサゴとメバルを始末する! えらに包丁を突き立て下側にさっくり。途端に血があふれ出すがここで躊躇してはいけない。しっかりと頸椎にも包丁の刃を入れて楽にしてやる。神経が切断されたのでもう動く事は無い。血抜きをしながらお腹を掻っ捌いて内臓を取り出す。この時えらも一緒に切り出し背骨近くの血糊もきれいに取る。そしてペットボトルのキャップを使って鱗をはがす。カサゴは背びれに毒があるので調理用ハサミで切り取る。刺されると腫れて痛いのだ。下処理が出来たらキッチンペーパーでよく水けを拭き取っておく。
3、軽く塩を振ってしばらく放置。その間にメバルだけは横腹に「るろ〇に剣心」のほっぺたの傷を入れるw
4、片手鍋を準備してそこにメバルを入れてひたひた位にまで水を入れる。生姜、みりん、砂糖、日本酒、醤油を入れて火をつける。最初は中火で煮え立つまで、その後は弱火で落し蓋してコトコトと。
5、塩をふっておいたカサゴの水気をもう一度キッチンペーパーで拭いて片栗粉をまぶしてから既にコンロにかけている油鍋に投入! じゅわーっと音がしてカサゴが油の中を泳ぐ。どんどん入れていき五匹全部油鍋で泳がせる。ちなみにほとんどが十五センチ前後なので頭はつけたまま、しっかりと油で揚げれば頭ごと骨まで美味しく食べられる。
6、野菜が無いのでカット野菜を取り出し、ボールに入れてからみそ汁で使った残りの豆腐を細かく角切りにして乗せる。飾りつけでシーチキンも載せてやる。この時缶詰の油も少し豆腐にかける。あとは食べる直前に玉ねぎ醤油ドレッシングをかければ好い訳だ。
7、油鍋の中のカサゴが黄金色に変わり油で揚がる泡が少なくなったら引き上げて油切りをよくする。お皿に盛って抹茶塩とレモンを横に添えて出来上がり。
8、煮付けておいたメバルも良い感じに煮付けられた。崩れない様にお皿に盛って煮詰まったたれもかけて出来上がり。
ご飯も炊けた様だ。
全てのおかずとご飯、みそ汁もよそって食卓へ。
魚をさばく間ガクガクブルブルと血を見るのを怖がっていた みさき だが、テーブルに並んだおかずに顔を輝かす。
「うぉー、和食だ、和食! 美味しそうっ!」
「新鮮な魚だからな、うまいぞ~、さて」
二人して手を合わせて
「「いただきます!」」
早速カサゴのから揚げを箸で取る。
それに抹茶塩をかけて頭からかぶり付く!
とたんに口いっぱいに香ばしい風味とバリバリと簡単に砕ける食感のカサゴの頭。
この魚は本当に不思議でこの頭が何とも言えない旨さがある。
振りかけた抹茶塩もいい塩梅でぱりぱりと咀嚼して飲み込む。
「美味しいっ! なにこれ!? 全然固くない! しかも香ばしくって頭食べているのが分からない!」
そう、食感は素晴らしくぱりぱりで鳥の皮チップみたいに香ばしく、カサゴ独特の風味が効いている。
しかもよく油で揚げているので堅い骨も気にならないほど簡単に噛み砕ける。
そのまま本体もかじりつく。
本体も頭同様香ばしいながらも魚の身が残っているのでホクホクな食感が追加される。
根魚と呼ばれるこの魚はとてもうまい。
本当はもっと大きいのであれば煮魚にしても旨いのだがこのサイズだとから揚げか姿揚げの方が旨い。
ここで豆腐がさっぱりなサラダで口なおししてから煮魚に。
メバルもカサゴ同様根魚と呼ばれ、やはりとてもうまい。
サイズ的にちょっと小さいが陸から釣る中ではまあまあのサイズ。
これより大きいのは沖に行かないとつれないらしい。
奇麗に魚の姿を保ったままの煮つけに箸を入れる。
とたんにポロリと身が取れ、甘しょっぱいたれをつけて口の中に。
生姜が効いていて魚の生臭さは全くない。
そしてほこほこした身は甘しょっぱいたれとよく合う。
旨味も十分に煮詰まっているのでそのまま白米も口に。
「これも美味しい! 甘じょっぱいのがご飯に合う~ これ好きぃ~♡」
にこにこしながら みさき も白米と一緒に口に煮魚を運んでいる。
私はレモンをつまんで みさき に聞く。
「カサゴレモンかけるけどどうする?」
「あたしもかける!」
そして今度はレモンをさっとかけたカサゴのから揚げを食べる。
バリバリ
レモンのおかげで脂っこさが全然気にならない。
ちょっと抹茶塩も付け足してそのまま尻尾まで豪快にバリバリと喰う!
バリバリ
もしゃもしゃ
ごっくん
「レモンかけたのも美味しいね、あ、残り一個だ」
「いいぞ食っても。こんな新鮮なの滅多に食えないからな。それに店で食えば一匹で五、六百円くらいは取られるからな、今のうちだぞ!」
「ごちになります!」
そう言って美味しそうに最後のカサゴのから揚げを食べる。
私はその嬉しそうな笑顔を見ながらメバルの煮つけを食べる。
ほどなく食卓の上は空っぽのお皿になってしまう。
「いやぁ~、食べた食べた」
「流石に新鮮な魚は美味かったな、海無し県のここじゃものすごい贅沢なんだぞ?」
「わかってるって、ありがと、美味しかったです!」
珍しく素直だ。
にっこりと笑うみさきの笑顔を見ながら手を合わせる。
「ごちそう様でした」
「ごちそう様!」
滅多に食えない新鮮な魚。
今度は みさき も海釣りに連れてってやろうか?
私はそんな事を思う。
そしていつもの笑顔でお粗末様でした!
そう言えばあの箱何だったのだろう?
ふと気になって玄関の箱を開けてみると‥‥‥
中から沢山のお菓子が出てきた!?
「おい、 みさき ! これはなんだ!?」
しかし前回同様既に居間に みさき の姿は既に無かったのだった。
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