四皿目


 流石に冷蔵庫の中が空っぽなので夕方に二人してスーパーに買い出しに来る。


 「まずは野菜、練り物、魚、肉、卵に牛乳、乾物と調味料の買い足し、そうだ特価78円餃子も買っておこう。あとは‥‥‥」


 「お菓子~♪」


 「却下だ!」


 「ええっ!? あたしの楽しみを奪うか!?」


 「お前、ダイエットするとか言って無かったか?」


 とたんに目線が泳いで口笛拭いたりする。

 買い物かごに必要なものとかチラシの特売品を入れていく。


 「そういえば喰いたいものあるか?」


 「んー、久しぶりにお肉食べたい!」

 

 「どんなのが良い?」


 「最近友達の間で流行りのローストビーフ丼が食べたい!」


 いきなり難易度の高いもんを‥‥‥

 生鮮肉売り場に行ってみる。

 

 おっ!

 牛もも肉半額やってる!!


 私はさっそくそれを取りかごに入れる。


 「喜ぶがいい、今晩はローストビーフ丼だ!」

 

 「おおっ! やったぁー!!」


 そしてお会計をするがなぜか菓子代が総額の半分行っていた。

 おのれ みさき、これでダイエットできんのか!?



 * * * * *

 

 

 家について冷蔵庫に食材をしまう。

 お菓子をひっつかみパソコンの前に逃げようとする みさき を捕まえお菓子没収。

 

 「お代官様、それだけはお許しくださいませぇ!」


 「ええい、放さんか! もうじき夕食だ! 我慢しろいっ!」


 ぶうたれて耳と尻尾をだらーんとしている みさき 。

 それを見てちょっと満足してから私はエプロンをかける。


 餌付け用の品を作り始めよう!


 

 本日はこれ。

 <ローストビーフ丼とオニオンスープ>


 1、まずはお肉を確認してさっと水洗いしてからぬめりを取る。半額製品は流石に傷んでいる場合があるのでこの時に確認。そしてキッチンペ―パーで水気をよく拭き取ってから軽く塩を振っておく。


 2、チューブのニンニク、ブラックペッパー、岩塩、乾燥バジル、乾燥オレガノ、そしてウィスキーを牛もも肉によく刷り込んでラップをしてからしばらく寝かす。


 3、その間にご飯を炊きながら片手鍋にお湯を沸かし、コンソメを入れる。


 4、次いで白ワイン、ブラックペッパー、白だし少々、そして中華鶏がらスープの素も追加する。


 5、玉ねぎをスライスして鍋に入れて弱火でコトコト。


 6、別の片手鍋にお湯を沸かす。


 7、フライパンにオリーブオイルを薄く引き強火で過熱。そこへ寝かせておいた牛もも肉を入れて表面をこんがりと焼く。じゅーっと好い匂いがし始める。


 8、腹が減った みさき が周りをうろちょろするのでインスタントコーヒーをれて目の前に置く。何も知らずにとりあえずそれをもってパソコンの前に行くが食前にブラックコーヒーを飲むと消化促進効果が有って余計に腹が減る。見事にコーヒーを飲む様を眺め密かに笑う(ニヤリ)。


 9、表面が焼けた牛もも肉をビニール袋に二重に入れてなるべく空気が入らない様にしてから縛り、沸かしていた片手鍋に投入。この大きさなら大体十三分くらいかな?吹きこぼれない程度に茹でる。


 10、茹で上がったら準備していた氷水でビニールの袋事急冷却。粗熱が取れたら取り出しラップでくるんで冷蔵庫へ。残り汁をフライパンにいれ赤ワイン、ウースターソース、少量のトマトジュースを入れてゆっくりと煮え立たせる。味を見ながら岩塩、あらびき黒コショウを入れる。水分が飛ぶととろみのあるソース完成。


 11、先ほどの片手鍋のお湯を再沸騰させてからコップ一杯の水を入れ火を止める。そこに冷蔵庫から出しておいた卵を四つほど入れ蓋をして十四分湯煎する。時間を間違えると完全に固まってしまうので要注意。冬場はガスコンロの上に放置した方が温度的にいいみたいだ。時間になったらすぐに卵を引き上げおわんに入れて放置。


 12、ここでご飯が炊きあがるまでしばらく休憩。自分もインスタントコーヒーを入れてコーヒーブレイク。みさきに内緒でビスケット一枚食うW


 13、ご飯が炊きあがったので冷蔵庫の牛もも肉を見てみる。うまく冷えて旨味が染み込んだ様だ。それを取り出し薄くスライスし始める。切り口は見事に桜色。本当はもっと生っぽくしたいが半額セールなので安全第一。


 14、ご飯をどんぶりに多めによそってマヨネーズを薄く糸のようにお好み焼きの上にかかっているように引いてからカット野菜を多めに投入。シーザーサラダのドレッシングを軽くふりかけ切っておいたローストビーフを並べていく。中央にはバラの花のように巻いた形状にしてから先程湯煎していた卵を割って乗せる。うん、見事に温泉卵になっている。最後に作っておいたローストビーフのたれをかけて見た目をよくするために水でさらしておいた玉ねぎスライスを少量乗せる。そして乾燥パセリをパラパラと。これでローストビーフ丼完成!


 15、残ったローストビーフは別皿に盛り付けてこちらにはわさび醤油とごま油に岩塩とあらびきブラックペッパーのたれを添えておく。


 16、コトコトと煮込んだとろとろになったオニオンスープをカップに入れて乾燥パセリと前に作っておいたクルトンを入れて完成。



 見ればすでに空腹の苦痛に苦悶しながら食卓に着いている みさき がいる。



 「さあ、出来たぞ。特製ローストビーフ丼温玉付きだ! オニオンスープもあるぞ」


 「うぉぉおおおおぉっ! やっと出来たぁ! お腹すいたぁ!! 早く食べよう!」


 テーブルにローストビーフ丼とオニオンスープ、あまりのローストビーフを並べて準備万端。



 「「いただきます!」」



 二人して手を合わせてローストビーフ丼を食べ始める。


 みさき は早速温泉卵を割ってとろとろに流れ出る黄身をローストビーフに絡ませて食べる。


 「うおっ! お肉柔らか! 美味しいっ!」


 そして更に一口、二口と食を進めていく。

 私はそんな みさき の様子を見ながらまずはオニオンスープを飲む。


 とろとろに溶け始めた玉ねぎが良い感じで甘い。

 コンソメと玉ねぎの相性は抜群。

 塩っ気の有るその味を楽しみながらクルトンも一緒に口に入れる。

 まだふやける前だからカリカリとした触感が良い感じだ。


 さて、みさき もかぶりついているローストビーフ丼に行ってみようか。

 私はまずソースのかかったローストビーフだけ箸で取り口に運ぶ。

 牛肉の赤身肉がその旨味を表面のローストでしっかりと閉じ込め、桜色の中身は柔らかく旨味を閉じ込めたまま私を楽しませる。

 隠し味で使ったウィスキーが何とも言えない独特な苦みと香りを織り成し肉だけではパンチの効かない味にソースが絡んで咀嚼して飲み込むまで肉本来の味をずっと楽しませてくれる。

 

 うん、好い感じに出来上がった。


 今度はみさき同様に温泉卵を割ってそのトロトロの流れ出す黄身にローストビーフを絡ませる。

 そして口に運ぶと今までとは全く違った味が口の中で暴れる。

 まろやかさが増し、半生の肉がぐっと旨味を増す。

 極上のまろやかさととろみを肉の旨味と一緒にかみしめる。

 そして野菜と白米も口に運ぶ。

 チーズの風味が効いたシャキシャキの野菜が肉と、そして白米と絡み口の中に楽園を醸し出す。

 

 外食と違いこれでもかと盛ったローストビーフはまだまだどんぶりの上にその存在感を誇示する。


 私は腕まくりをしてその肉の山に挑むことにする。

 二人して今日は「肉」を心底堪能しよう!

 


 「これめちゃくちゃ美味しい! あ、しまった写真撮るの忘れた!! くぅうぅぅ、友達に自慢したかったのにぃ!」


 「じゃあ、こっちでもいいじゃんか?」



 私はそう言って余ったローストビーフのおつまみを箸で指す。

 


 「おお、そうだね、とりあえずスマホスマホっと」


 写真を撮りながら結局半分食い散らかしたローストビーフ丼も撮影して友人に送信している様だ。

 さて、撮影も終わったからこっちのつまみも喰ってみようか。


 私と みさき はそのつまみ用のローストビーフをわさび醤油で食べてみる。


 「んんっ! これ有! さっぱりしているけどお肉の味しっかりしている!」


 「これは酒が欲しくなるな」


 「冷蔵庫に発泡酒あったよ!」


 今日はもう出かける事も無い。

 みさき が喜んで持ってくる発泡酒をグラスに二人で分ける。


 「かんぱ~いぃ!」


 「乾杯!」


 グラスを打ち鳴らして黄金の液体を喉に流し込む。

 しゅわっとしたのど越しに苦みがほど良く口の中を洗い流す。

 そしてもう一つのたれ、ごま油にローストビーフをつけて口に運ぶ。


 「うぉっ! これも有りぃ! なにこれ、ごま油めっちゃ合うっ!」


 胡麻独特の風味にまったりとした口当たり、しかし塩っ気とあらびきブラックペッパーのおかげでしっかりと肉の味が引き出される。

 結構ごま油つけても脂っこさをほとんど感じない。

 

 そして再び発泡酒を飲む。


 「やばいっ、これ癖になる!」

 

 またまた心底嬉しそうに みさき は笑う。

 そんな みさき を私は見ながら更にローストビーフのごま油だれを口に運ぶ。


 たまには肉もいいかな?


 私は肉自体嫌いではないが魚類の方が多い。

 しかし みさき は肉が好きだ。


 肉食系‥‥‥


 ま、まあ、それは良いとして残りのローストビーフ丼を平らげる。




 「ぷっはぁ~、美味しかった! ごちそう様~!!」


 「はい、ごちそう様」


 「ねぇねぇ、だけどこんなにお肉食べて大丈夫かな? また太るかな??」


 「赤み肉は太りにくいぞ。それより何より間食、お菓子喰わなきゃ大丈夫だ!」


 「そこに戻るかぁ~ でもちゃんとご飯作ってくれるならいいか」


 そう言ってまた笑顔になる。

 まったくこいつは。




 そしていつもの笑顔でお粗末様でした!


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る