三皿目


 本日は休み。



 久しくちゃんと休めなかったので今朝はだいぶ遅くに目が覚める。

 隣ではまだ みさき が寝ている。



 既に日はだいぶ上に登っていてカーテンを開けると眩しいくらいの日光が差し込む。



 「うぎゃぁああああぁっ! 体が溶けるぅううっ!!」


 「お前は吸血鬼かっ!? ふざけてないで起きろよ!」


 「やだ寒いもん。まだお布団にもぐっている!」

 


 既に掛布団でオームの様になっている。



 「寒いならちゃんと服着ろよ」


 私はそう言って服を着ながら台所へ向かう。

 


 * * *


 

 部屋のストーブをつけてカーテンを開ける。

 壁掛けの時計は既に十時を回っていた。


 ラジオのスイッチを入れて手を洗ってからレモン水を作る。

 それとコーヒーを入れるためにやかんでお湯を沸かす。


 その間に簡単に顔を洗い歯を磨く。

 

 戻ってくる頃にはちょうどお湯が沸いていた。

 ガスコンロの火を一番弱くする。

 先に自分の分のレモン水を飲む。



 乾いた体に面白いようにレモン水が染み込んでいくのが分かる。



 「さてと、朝飯‥‥‥ いや、この時間だと朝昼一緒だな?」


 「う~、おはよぉ~」


 決してこのままでは人様の前に出せない みさき が起きてきた。

 私はレモン水をコップに入れ みさき の前に置く。


 「時間が時間だから朝昼一緒な。とりあえずこれ飲んだら顔洗ってこい」


 「はぁ~いぃ‥‥‥」


 レモン水をくいっと飲み干しずるずると洗面所に向かう みさき 。

 コーヒー豆を挽きながらその様子を見る。

 ありゃ洗面所の前でコケそうだな。



 ガタン、バッターん!



 「ふぎゃぁぁあああっ!」



 やはりコケたか。


 私はコーヒーをドリップしながら予想的中にうなずく。


 残念ながら今はドリップ中で救援には行けないのだ。

 コーヒーを泡立てながらアクをフィルターに染み込ませすっきりした味わいにしたいからやかんのお湯もちょびちょび入れる。

 この時ガスコンロの火は消さずやかんをこまめに火にかけ温度が低くなるのを防ぐ。

  

 入れ終わったらカップにコーヒーを注ぐ。

 二人ともブラック好きなのでそのまま みさき の分もカップに入れて食卓に置いておく。



 さて。

 流石に腹も減ってきた。

 冷蔵庫の中を見る。

 見る‥‥‥

 見る‥‥‥



 え”え”ええええええっ!?



 何も無い!?

 あれ?

 買い物は??



 「うわ~、コケたコケた。まさかブラジャーが足に引っかかってたとは知らなかった~」


 「いや、そんな事よりこれはどういう事だ? 冷蔵庫の中身全く無いじゃないか!?」


 「あれ~? 牛乳は残ってたと思うけど?」


 「牛乳だけで何を作れと!?」


 「コーンフレークでいいや~」


 「いや、それすらないぞ! 勿論プロテインバーも在庫切れだ!!」


 「なんですとぉっ!?」


 見事に空の戸棚や冷蔵庫を みさき も見る。

 

 「ありゃ?」


 「お前、昨日買い出し行かなかったな?」

 

 「だってぇ~ホット〇ットで昨日は済ませたから冷蔵庫の事まで気が回らなかったよぉ~」


 いや、気を回せ、本気で‥‥‥

 私は言っても仕方ないので心の中だけで突っ込んでおく。



 しかしそうするとどうしたらいいものか‥‥‥



 野菜室を見る。

 かろうじてカット野菜はあるな、ちょっとしなびているけど。


 乾物置き場はっと。

 見ると乾麺とスパゲティがある。

 レトルトも見るがあいにくこちらは全滅。



 しばし考える。



 「今日は出かける予定は?」


 「ん~、無いよぉ。お腹減った」


 それでは牛乳はあるから多少匂いの付く物でも大丈夫か?



 私はエプロンをかける。

 餌付け用の品を作り始めよう! 




   

 本日はこれ。

 <ペペロンチーノとチョレギサラダ>



 1、大きな鍋にお湯を沸かす。そして塩を入れるが分量はそのお湯を飲んでみそ汁位のしょっぱさまで入れる。意外と沢山いれるが出来上がり時には影響はない。


 2、にんにくをスライスして断面をなるべく空気にさらす。こうすると香りがより一層強くなる。


 3、乾物の鷹の爪を取り出し枝の所を指で引きちぎり揉みながら中の種を取り出す。辛いのが好きならこの種を入れたままでも良いがかなり辛くなるのでほとんど取り出すように注意する。


 4、パスタの袋表面に書いてある茹で時間より三十秒ほど短くタイマーをセットして鍋にパスタ投入。


 5、フライパンにオリーブオイルをかなり多めに引いてにんにくを入れてから弱火で焦がさない様にする。だんだんと良い香りがしてくる。

 みさき が着替えながら鼻をすんすんしてこちらに来る。


 6、香りがオリーブ油に移ったら鷹の爪を指で引きちぎりながら入れる。火を通していると色が変わり始め唐辛子の焦げる好い匂いもし始める。


 7、茹でる残り時間を見ながらお玉でゆで汁を取りフライパンに入れる。途端に「じゅーっ!」という音がして好い匂いが更に部屋中に充満する。既にここはイタ飯屋さんの匂いに包まれている。


 8、コンソメの素を約小さじ一杯フライパンに入れてソースを作る。ちょうどタイマーも鳴ってパスタが茹で上がる。


 9、ここからが勝負! パスタをフライパンに入れ手際よく炒め始める。ゆで汁を追加しながらオリーブ油とゆで汁が乳白化するまでよく絡めながら炒める。この時ゆで汁は多めに入れる事。そしてちょっと味見して塩を追加する。最後にオリーブ油を追加してから絡めてお皿に。乾燥パセリをパラパラかけて出来上がり!


 10、カット野菜は水に浸してから良く水切りしてごま油、ブラックペッパー、味の素、塩でさっと絡めればサラダ出来上がり!



 よだれを我慢して珍しくスプーンとフォークを並べている みさき が待つ食卓へ持って行く。


 「はい、出来たよ。大盛ペペロンチーノ!」


 「うわー、炭水化物祭りだぁ!」


 「パスタダイエットってのもあるらしいし、ペペロンチーノはカロリーが低いから大丈夫だろ? それにこれ朝昼一緒だからな。あとでお菓子とか食うなよ?」


 「うっ、分かったよぉ、それより早く食べよう!」


 私は席について手を合わせる。


 「「いただきます!」」


 パスタをフォークで巻き取り口に運ぶ。

 

 心地よい歯ごたえのパスタがニンニクと唐辛子のソースによく絡まっている。

 オリーブ油の香りにニンニクが加わると何故こんなに美味しいんだろう?

 そしてローストされた唐辛子は香ばしさと強烈な辛さで主張してくる。

 咀嚼して飲み込むころには次のパスタを巻き取っている。

 基本塩味なのに隠し味のコンソメがその存在を消してサポートしているので旨味も十分に有りあっさりしているのにコクがある。

 お皿の下に乳白色化した汁がある。

 それを更にパスタに絡めて食べると一段と濃くなった味が口の中で踊る。


 「おいしいぃ~! でもなんでこんな歯触りが出来るのよ? レンジでチンするとでろでろになるのに」


 「ミネラルが効いた水じゃないと麺がふやけるんだよ。それとフライパンで過熱すると更にやわらかくなるから茹で時間を三十秒くらい短くするとちょうどいいんだ」


 種明かしをしているとみさきは「おおー」とか言っている。


 

 「でもあたしには出来ないからやっぱ作ってね♡」



 心底嬉しそうなその笑顔を見る。

 本当は少しは自分で作ってもらいたいのだけど、この笑顔には負ける。


 「やっぱ卑怯なのはお前の方だよな」


 「んあ? 何か言った??」

 

 「いや、なんも」


 そして二人で黙々とパスタを平らげる。

 チョレギサラダもごま油が効いていて美味しく頂けた。



 「いやー、食べた食べた。お腹いっぱーい」


 「この後お菓子喰わなければ大丈夫だからな。ほれ牛乳飲んでおけ」


 コップに牛乳を注いで私はみさきに渡す。


 「ん、ありがと」


 そして みさき はこくこくと喉を鳴らして牛乳を飲む。


 「ぷはっ! でもなんで牛乳なのよ?」


 「一応お口の匂い対策な。牛乳がニンニクの香りを吸収してくれるんだよ。流石に後で買い物行かなきゃ晩飯も作れんぞ。冷蔵庫の中思い出してみろよ?」


 「あっ」とか言っているがこいつ、本気で料理するつもりは無いのだろう‥‥‥


 私は牛乳を飲み終えてから手を合わせて「ごちそう様」する。

 しかし みさき は笑いながら「ごちそう様」している?


 「あはははっ、だって牛乳の髭出来てるんだもん、そのままじゃ外出れないよね?」


 まったくこいつは!

 その笑顔を見ながら今晩の夕食何にするか今から考える私。


  


 そしていつもの笑顔でお粗末様でした!


  

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