第43話 宵闇小隊(5)

 筆記試験の結果は三人とも及第点だった。

 あとは採取面接を残すだけ、という段になってギードが三人の身上書を図南に突き付ける。


「隊長、いまからでも遅くありません。考え直しましょう」


 机の上に置かれた三人の身上書。そこに書かれている魔法スキルの項目に拳を振り下ろす。


「三人とも魔法が使えるのは凄いんじゃないのか?」


 魔法スキルを持っていない騎士や騎士見習いもいる。

 その中にあって魔法スキルを所持しているというのは得難い素質だというのが世間一般の評価であり、図南の考えもそう違いはなかった。


「使える魔法に問題があります! 私を含めて五人中三人が風魔法の術者です。もう少しバランスってものを考えましょうや」


 図南を除けば、火魔法の術者が一人もいないことを懸念している。


「カルラ・クロスを外して火魔法のスキルを持った者を採用すべきです」


 彼女の未発現のスキル――、神聖魔法、水魔法、火魔法を知らないのだからギードの発言も仕方がない。


 図南はカルラのスキル構成——、未発現のスキルがあることに触れずにどう説得したものかと考えていた。


【名 前】 カルラ・クロス

身体強化   3/10

神聖魔法   0/10

水魔法    0/10

火魔法    0/10

風魔法    1/10


(説得のポイントは、やっぱり他の騎士や騎士見習いよりも優れている身体強化あたりなんだろうなー)


 考えがまとまらない図南は、説得の手立てを探りながら適当に話をはぐらかす。


「魔法スキルを持っていない騎士もそれなりの数がいると聞いている。そんななかで五人全員が魔法スキルを持っている小隊なんて凄いじゃないか」


「確かに魔法スキルを持っていない騎士もそれなりの数はいます。ですが、そいつらは魔法スキルに頼らない戦い方を身に付けている者たちです」


 主に優れた身体強化スキルを所持した者たちなのだが、それでも、並々ならぬ努力をしたのだと主張する。


「カルラ・クロスもそうなるとは思わないのか?」


「可能性はあるかもしれません。それは否定しませんが、いまは即戦力となる者を採用するのがいいと言っているんです」


(目先を変えるか)


 この方向での説得が難しいと悟った図南が話を変えた。


「では聞くが、土・水・火・風の魔法スキルが揃っている小隊は幾つある?」


「え? そうですね、五つか六つと言うところでしょうか」


「随分と少ないんだな」


「そりゃ、身体強化スキルと魔法スキルを兼ね備えている者が希少ですから」


「だったら――」


「だからこそ、四属性の魔法スキルがバランスよく配置された小隊は重宝されるんです」


「俺も火魔法を使えるから、小隊全体で考えれば四属性揃っているよね?」


「まあ、確かにそうなんですが……」


(もう一押しだな)


「これは内密にして欲しいんだけど」


 図南が意味ありげに言葉を区切って声をひそめる。


「カルラ・クロス、彼女ね、風魔法以外の素質があるよ」


「はあ?」


「信じるか信じないかは勝手だけど、他言無用で頼む」


「小隊長、言いたかないですが、カルラ・クロスが好みってことはないですよね?」


「可愛らしいとは思うけど?」


「愛人候補ですか……。神官様ならともかく、騎士はいけません。任務が任務ですから命を落としかねません。考え直してください」


 ギードが真剣な顔で詰め寄る。


(ここでもかよ……。どうも異世界の教会ってのは、俺が考えている以上に乱れているみたいだな)


「純粋に戦力として見ている。それにこれ以上問答しても埒が明かないんじゃないのか?」


「分かりました。一ヶ月様子を見させて頂きます。それで、小隊長があの小娘に手を出すようなら俺は副隊長を降りさせてもらいますからね」


(副神殿長の差し金で副隊長になったのにいいのか?)


「分かったよ。それでいい。じっくりと見ていてくれ」


 その後、三人の面接を経て、正式に図南が小隊長を務める第一特別小隊が設立された。

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