第42話 宵闇小隊(4)

 訓練場の片隅、図南とギードの前に三人の見習い騎士が並んだ。

 三人とも緊張し、興奮しているのがうかがえる。


 そんな彼らを見つめる訓練中の騎士たちが好奇の視線を投げかけ、見習い騎士たちは羨望の視線を向けていた。


「ギード、騎士と見習いの温度差が激しいように見えるが、もしかして、候補とした三人が見習い騎士だからか?」


 新小隊のメンバーは自分たちのなかから選抜されると思っていた騎士たち。

 ところが蓋を開けると、候補とは言え騎士は一人もおらず三人とも見習い騎士から選抜されたことに冷め、逆に選抜から洩れた見習い騎士たちは羨んでいるのだと思った図南が確認するように聞いた。


 言わんとしていることを察したギードが言う。


「当たらずとも遠からずです。隊長が同年代の見習い騎士を選んだんで騎士たちは面白くないんでしょうな」


 そう言って、クククと笑った。


「ありがとう、理由が分かって胸のつかえがとれたよ」


 無遠慮に笑うギードに図南もつい不機嫌な口調になる。だが、そんな図南の反応さえも面白がるように『まだ続きがあるんですよ』、とギードは尚も笑いながら言う。


「見習いの連中が羨ましそうにしているのは他にも理由があります」


「他の理由?」


「見習い騎士が小隊のメンバーとして採用されれば、その瞬間から神聖騎士となります。同じ見習いのヤツらからすれば羨ましいことこの上ないでしょうな」


 まさに抜擢である。


「見習い騎士から正式な騎士——、神聖騎士になるのには通常は試験か何か必要なのか?」


「剣と魔法の試験の他に学問の試験があります。ですが、三人の中隊長以の推薦がないとそもそも試験すら受けられません」


 予想以上に狭き門なのだと言うことに驚いた。


 そして、眼前の三人が不採用となったときの落ち込みようを想像して胸を痛める。現時点で不採用にするつもりはなかった。

 何と言っても図南が解析のスキルを使って選りすぐった能力の持ち主である。


 カルラ・クロスに続いて選んだ二人の能力を改めて見た。


【名 前】 クラウス・ベルツ

【H P】 159

【M P】 188

【スキル】 

身体強化   1/10

土魔法    1/10

風魔法    1/10


【名 前】 エルゼ・バール

【H P】 172

【M P】 137

【スキル】 

身体強化   1/10

水魔法    1/10

強運     6/10(固定)


 そして最後に隣の振隊長に視線を向ける。


【名 前】 ギード・フーバー

【H P】 237

【M P】 166

【スキル】 

身体強化   6/10

土魔法    3/10

風魔法    4/10


(このオッサン、やっぱり優秀だな)


 ギードの能力は数多いる騎士たちのなかでも突出していた。


 訓練中の騎士だけでなく、何人かの騎士たちを解析スキルで確認したのでわかるが、騎士と騎士見習い、身体強化を持っていない者は皆無だった。

 そして、それ以外にも何らかの魔法系のスキルを持っている者がほとんどである。


 だが、選抜した三人は素質だけならギードに並ぶと図南は考えていた。

 それでも面接の結果、為人ひととなりに問題があればその限りではない。


 図南は陰鬱な気持ちを振り払うように首を横に振るとギードをうながす。

 首肯一つ、図南の隣に立っていたギードが三人の見習い騎士たちに向けて、


「まず初めに言っておく! お前らはあくまでも第一次選抜の候補だ! 勘違いするなよ!」


 厳しい第一声を発した。


(うわー、もう少しオブラートに包めないのかよ、このオッサン)


 胃の辺りを押さえながら図南がささやく。


「もう少しやんわりと」


「任せてください」


 ギードはそうささやき返すと三人の見習い騎士に向けてさらに言う。


「これは新しく発足する小隊を編成する選抜だ。お前ら三人はあくまでも第一次候補で、正式に小隊に採用された訳じゃねえぞ! そのことは肝に銘じておけ!」


 どうやらオブラートに包む気はないようである。

 そして図南を紹介する。


「新しく編成される小隊の隊長である、トナン・ヨイヤミ小隊長だ」


「トナン・ヨイヤミだ。これから君たちには試験と簡単な面接を受けてもらう。その結果をもって小隊のメンバーとして迎えるどうかを判断させてもらう」


 挨拶を終えた図南にギードが聞く。


「通例では、ここで小隊長と候補者との手合わせをするんですがどうします?」


「剣術の心得はないんだ。手合わせしたところで相手の技量も推し量れないからやる意味がない」


 臆面もなくそう言うと、驚く見習い騎士たちに向けて建屋に移動するようにうながした。

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