第37話・見えた光

算学数さんがくすうは高校一年生、十月にて。算学は校門を抜け、靴を脱いで上履きを取ろうとしたが、自分の上履きは雨ではないのにも関わらず、びしょ濡れで雫が床にボタボタ落ち続けた。教室の中に入ると自分の机と椅子は油性ペンやチョークで汚れていた。そして誰も俺に話し掛ける人がいなくなった。話し掛けようとすると無視か、舌打ちされてしまった。


「辛い? 辛いよね? 」

その日の放課後に二人だけの教室内にて、八乙女胡桃やおとめくるみが算学に話し掛けた。算学は泣くのは堪えて怒りを胡桃にぶつけた。

「てめぇお前がやった事は人としてやってはいけない事だ」

それを聞いた胡桃は笑い出した。

「何言ってんの? 人殺しの子が普通に学校に通ってるって、人としてやってはいけない事じゃないの? 私もアンタも”一緒”よ。 良かったね~」

胡桃の笑い声は大きくなる一方であった。

「誰かに頼れる? 無理ゲーだよね? もう誰もいないんだよ 。”私含めて”」




地獄は続く。次の日は学校を休む事にした。然し算学が持っていた携帯に写真が送られてきた。一枚目は学校の窓が割られている写真、二枚目は教室全体に油性ペンやチョークで汚されてた写真、三枚目は大怪我を負った同級生が無理矢理笑顔を作りつつも涙をしている写真と、普通では無い写真が送られてきた。算学は部屋にあった工具セットを取り出して、中にあった金槌で携帯を何度も何度も叩き付けた。




算学は次の日もまた次の日もとズルズル学校を休んでいった。ずっと算学は自分が借りたアパートの部屋に出る事が無かった。こうしているうちに他の人にも影響は広がっていった。算学の担任の先生は学校を辞めたりと影響を受けた。それでも中々胡桃の奇行は終わる事は無かった。というのも胡桃には沢山繋がりのある人がいた。

胡桃の叔父は算学達が通っていた学校の校長であり、この状況を無視するしか出来なかった。胡桃と仲の良い同級生の父親は記者であり、この状況は算学のせいであると記事にしたり、算学が人殺しの子である事を記事にした。そのせいで算学の住むアパートにメディア関係者が来る日が多くなっていった。




時はあっという間にもうすぐ高校二年を迎えるタイミングとなった。死のうと何度も思った。が、胡桃の声が聞こえてくる。

「自分だけ逃げればいいのね~。死んで終わりとか……ナメてんの」

そんな幻聴が算学を襲って来た。たまたま寝る事が出来た日にも関わらず、夢に胡桃が出てきて直ぐに起きてしまっていた。


算学の住むアパートにて一人の人物が尋ねてきた。算学は無視しようとした。が、ドアを施錠しているにも関わらず、ドアは破壊されて算学に対して久しぶりの太陽の日差しが当たった。

「悪いな。ドアの修復代どれくらいする?」

算学と同じくらいの年齢と思われる細身で筋肉質の男の子はそう言った。算学は口を開く事無く、その男の子は話を続けた。

「まぁいいや……思い出せ、あの人を」

それだけ言うとその男の子は去っていった。床には封筒が置いてあり、中にはドアの修復代であろうか百円玉がギッシリ詰まっていた。


算学は考えていた。男の子の言葉の意味を。

「思い出す? あの人?」

算学の頭の中に濃い霧が立ち込める中、少しずつ濃い霧は薄くなっていき、遠くに誰か見えてくるような感触になった。どんどん霧が薄まり、女の子である事が分かってきた。霧はほぼ無くなり、算学は思い出した。

「何故忘れてたんだ……アイツがいるじゃないか、俺には」

算学は立ち上がった。そして決めた。東城風とうじょうふうという”約束の人”に再び会う事を。





「言いたくは無かったんだ。お前本人に」

算学は遠くの夕日の方へ言い聞かせる形で打ち明けた。何故刹那高校に転校したのか。八乙女胡桃はどんな人物なのか。算学が抱えている闇とは何なのか。風は流石に直ぐに言葉を発する事は出来なかった。そんな風の様子を横めで見て何も言わず帰ろうとした時、風とは違う声が算学を呼び止めた。その声はあの時、久しぶりの太陽を算学に照らした男の子、算学の運命を変えるきっかけになった男の子の声だった。


「まさかこんな形になるとはねぇ、話は聞いてしまったよ」

算学は声の方へ振り向くと目が点になってしまった。そんな算学の様子を見て風も同じく目が点になってしまった。細身で筋肉質の男の子だった奴がワガママボディの姿に変わっていた。その男の子の正体は風も知っている柱号平太ちゅうごうへいただった。


「そっかぁ、こん前会った時は”ちょっと”痩せてたんだったねぇ」

平太は鼻をほじり、鼻水を算学の方へ飛ばした。

「おいおい待て待て今回シリアス回じゃないの? 何急にコメディ要素出してくんの?」

今度は平太が目が点になってしまった。

「あれが今これで、会ったのが四ヶ月ぐらい前で……」

算学は 少々混乱しているらしく、足元が覚束ず下の川の方へ落ちそうになったが、咄嗟に風は体が動いてそれを防いだ。


「本当にあん時の奴がお前か? 太り過ぎだろ……」

その算学の言葉を聞いて風は再び目が点になってしまった。

「はい? 柱号君がドア壊した犯人!?」

すると算学が間髪入れずツッコミを入れた。

「そうだけど、そうじゃないだろ!……なんでこんな太った?」

すると算学に向かって平太がラリアットを繰り出そうとしたが、算学は持っていたハンバーガーを包んでいた紙を素早く取り除き、平太の口に入れた。平太はラリアットを繰り出すのは止めてハンバーガーを味わった。何故か平太の横に並んで風もハンバーガーを味わっていた。


「おいおいテメェら、もうすぐ夕食の時間だろ」

遠くの夕日はほぼ見えず、辺りはもう暗い。ハンバーガーを食べ終えた平太は口を開いた。

「取り敢えず良かったよ。元気で何より何より」

平太は一時期ボディビルダーに憧れていた為、その際に当時の算学と初対面したようだった。その後はボディビルダーを目指すのは諦めて、元々のワガママボディにリバウンドして今に至っていた。

「僕についてもっと知りたいようだけど、また次回で」

三人は話の続きは後日する事になった。そして続く胡桃の野望を阻止するべく、三人は強く誓った。そして風は次に会う夏祭りの事を密かに楽しみにしていた。

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