第36話・質問タイム
教室は再び二人だけの空間に戻り、午後数学部の部活動に取り組んでいた。
「なぁ、他の用事って何?」
「他の用事? 何の事?」
風は感が鈍く、夏祭りの事だと気づかなかった。算学は苛立ちを覚えたが、素直に説明した。すると風は少し驚いた様子で
「えっ? 嘘に決まってんじゃん。本当だと思ってたの?」
風の挑発に算学は乗ろうと思ったが、ぐっと抑えて黙々と再び問題を解き始めた。
「よし、じゃあ質問タイムに移ろうか」
風は質問を、算学は願いを難問を解く事で聞いたり叶える約束をしていた。いざとなると場は張り付いた空気となり、喋りずらい雰囲気になった。そんな中、埒が明かないと風が口を開いた。
「ねぇ、先に言うけど一つじゃなくていっぱいあるの」
算学は察していたらしく、落ち着いて無言で顔を縦に振った。
「弟さんの事教えて欲しい。本当の事を」
風は真っ直ぐな目で算学の答えを待った。算学はちょっとためらおうとしたが、意を決して話す事にした。弟が亡くなったのは本当で、弟は算学の母である
「そうか……でも嬉しい。私に打ち明けてくれて」
風はそんな言葉で咄嗟に誤魔化してしまった。本当は更に質問攻めしたかった。同情したかった。でも算学が折角話してくれたので算学にとって最も良い方法を考えて、そんな言葉を発した。
「……でも復讐するつもりはない。安心しろ」
しかし何処か悲しげな目の算学は顔を洗ってくると言い、教室を出た。その隙に風は少しでも気持ちを切り替えるよう努めた。
「今までよく耐えてきたんだな……私なら絶対無理だな」
算学は教室へと帰ってきたと同時に風は明るく振る舞うよう勤める事にした。
「ねぇねぇ、まだ私の質問タイムは終わってねぇぜ! やっさん!」
「やっさんって誰だよ……」
算学は少し笑ってしまい、風は算学にバレないようにぐっとポーズをした。
「好きな食べ物何?」
風の意外な質問に算学は面を食らった。元々風は弟の事の次に、算学の元カノである
「夏祭り絶対来いよな」
「何で男口調なんだよ……暇だったらな」
「ずっと暇だろ」
そうして二人は校門前で別れた。この日は算学は別用があるらしく、ここで別れる事になった。風は余っていたハンバーガーを食わえて算学をまたもや笑かそうとしたが、算学は苦笑いだった。ちょっとギクシャクしてまったが、風は半ば強引に手を振って別れた。
「また会った~数君~」
算学が下校中、胡桃が待ってたかのように現れたが、算学は知っていた。別用とはこの事であり、算学が顔を洗ってくると言った間、胡桃からメールが届いており、約束の場所まで算学が歩いて来たのだった。
「数君に朗報がありま~す!」
胡桃が手を挙げて不敵な笑みを浮かべた。算学は胡桃からメールを受け取った際、ある程度嫌な事だと決めつけていた。然しそれは算学の予想外の内容だった。
「私、刹那高校へ転校になったから~」
算学は持っていたハンバーガーの入った袋を落とした。算学の頭の中に過去の惨劇が駆け巡った。そんな惨劇がまた見る事になると算学は立ちくらみを起こし、石につまずいて転んでケツから地面に着地してケツを痛めてしまった。そんな様子を見ても胡桃は動じず話を続けた。
「来るの二学期からだよ~”前みたいに”なっちゃたらダメだよ~」
そう告げると胡桃は後にしようとした時、また別の暴露をした。
「さっきから見てないでさぁ、出ておいで”彼女”さん」
するとセミが鳴いている大きな木の裏から話を聞いていた風が恐る恐る姿を現した。風は算学の様子が怪しいと思って、後を付いて来た訳ではなく、
「こっちの方にいる並木おじさんに会う事を急に思い出したから……」
そんな風の言葉を受けて算学は思わず笑いそうになったが、状況を読んでなんとか堪えた。
「誰だよ並木おじさんって。この状況で新キャラ出すな」
「並木おじさんは並木おじさん。ある日はパチンコ、ある日もパチンコしているおじさんだよ」
風が淡々と説明するため、算学はツッコミをせざるを得なかった。
「ただのまだ夢見てるニートのおじさんかよ……その話はもう後にしてくんない?」
「パチンコしかないんだよ! 毎日トリュフハンバーグなんだよ!」
風は話を終える事無く、算学のツッコミに更にツッコミを入れる形になった。
「毎日トリュフハンバーグって金あるじゃねぇか! なんなんだよ並木おじさん!」
算学は風のツッコミに更にツッコミを入れた。
「水飲む時、顔が上にいくタイプじゃなくて、正面のままのタイプなの! 並林おじさん」
ツッコミの連続はまだ続く。
「どうでもいいけど、ちょっとムカつく並森おじさん 」
まだツッコミの連続は続く。
「スーパーの目の前で自販機の飲み物購入するタイプなの! 特盛おじさん」
いつの間にか胡桃の姿はなく、急な風が吹いた事によりツッコミの連続は終わった。
風は以前に胡桃と会って元カノである事を知ったと、算学に打ち明けた。算学はいつもより深い溜息をして遠くの夕日の方へ言い聞かせる形で打ち明けた。
「アイツとは中学で出会った。あっちから猛アピールを受けて彼氏と彼女の関係になった。そのまま同じ高校に入った。が、この時俺の弟の件は打ち明けていなかった。でもある日、理由は分からないけどアイツは知ってしまった。そっから地獄の始まりだった」
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