第35話・皆の将来

算学数さんがくすうの元カノである八乙女胡桃やおとめくるみはある家を訪れていた。

「ちょっと今カノさんを揺らしてみましたよ。別に恨んでは無いんですけどねぇ」

その家の主は鳴子麻耶なるこまや東城風とうじょうふうの担任の教師の鳴子遠なることおいの妻である。今は別居中でこの家は隣町にあり、夫とはかなり距離がある所にあった。


「私も会ってみたいわね。東城風。ところで、東城風は算学の母が人殺しだということは知っている様子だった?」

胡桃はその質問を受けて舌を出して誤魔化した。

「すいませんねぇ。聞いていないなぁ。」

「あっそう。小倉家の方は順調そう?」

その麻耶の質問を受けて、胡桃は不敵な笑みを浮かべた。

「全く馬鹿な親子です。簡単に利用されて。少なくとも私を利用しないで下さいねぇ」




「八クション!!」

算学は数学部の部活動中、唐突にくしゃみをして、風の顔にまでくしゃみが飛び散ってしまった。

「ごめんは?」

「ごめんなすって」

「……まだ解けないの?何の問題貸してみい」

風は強引に算学の現代文の教科書を奪い取った。算学が取り組んでいた問題は文章問題で風も得意とは言えない問題だった為、無言で算学に現代文の教科書を返した。

「おい、分かんねぇのかよ。頼りにならんな。風のは?……あっ」

「あっ!名前で呼んだ。呼んだ。呼んだ」

風は嬉しさの余り、立ち上がり喜びの舞?を踊り出した。算学は悔しさと恥ずかしさと嬉しさを同時に込み上げたが、気持ちを切り替えた。


「始めての名前呼びじゃねぇだろ……お前こそ数学の問題つまずいているんだろ」

風はちょっとニヤケづらでもう一度名前呼びして欲しいと無言でアピールした。算学はため息をつくと無視して自分の問題を取り組み始めた。




昼時になり、二人は一旦数学部の活動を止めて昼食時間になった。二人は弁当を鞄から取り出そうとした時、二人は気づいた。

「弁当忘れた!!」

二人揃って弁当を家に忘れてきてしまい、テンションが下がっていると教室の扉が開いた。

「お届け物でーす!」

「ランチセットやで!」

豊海瑠璃とようみるり藤谷航也ふじたにこうやがピンチヒッターの如く教室の中に入ってきた。


「当たり前のように来んな!」

風が瑠璃に向けて足蹴りを決めた。案の定瑠璃は気を失ってしまった。代わりに航也が事情を説明した。どうやら瑠璃からここで遊んでいると聞かされ、楽しそうだから着いてきたらしい。ちなみに今日も大量のハンバーガーを買ってきた。

「昨日はダックだったけど、今日はモズらしい。瑠璃が買ってきたからな。 さっさと起きいな」

すると瑠璃は唐突に目を覚ますとハンバーガーを一人貪り出した。昨日同様チーズバーガーだ。

「なんや? お二人さん飯持ってきてないんかいな。丁度ええし、食いな」


四人はハンバーガーを頬張りながら、将来について話し出した。四人とも高校二年生、進路も考えなくてはならない時期であり、瑠璃と航也はただ遊びに来た訳では無かったようだった。航也は県外の大学を目指して既に猛勉強中であり、高校では学年トップらしい。

「意外だね。カレー食べて辛かった時、コーラ飲めば辛く無くなるぐらい意外だね」

風がそう呟くと、瑠璃が反論した。

「いやいや、(自主規制)が実はヅラだった事ぐらい意外だろ」

すると今度は算学が立ち上がり、驚きを隠せない様子だった。

「(自主規制)ヅラだったのか!?ずっと自毛だと信じていたのに……」

すると追い討ちをかける様に瑠璃が算学に耳打ちした。

「実は(自主規制)は(自主規制)して、(自主規制)もやって、最終的には(自主規制)だったらしい」

すると算学は謎の失望してしまい、暫く産まれたての小鹿状態でいた。


「いや、将来の話でしょ。ピーがピーした話どうでもいいからね。」

「風はん。編集が(自主規制)じゃなくて、ピーのままになってるで。……そんな事はどうでもええねん。皆は将来何したいんや?」

航也は話を戻し、皆将来について語り出した。航也は大学卒業後は小学校か中学校の教師になる夢を持っていた。一方の瑠璃は父同様、漁師の道を目指していて、高校卒業後は父から直々に漁師のテクニックを学ぶ事にしていた。母は警察官で、本人から警察官だけにはなって欲しくないと言われたらしい。


瑠璃と航也は将来について決まっていたが、風と算学はまだ決まってはいなかった。風は皆に自分が向いている職業について聞く事にした。

「せやな、風はんも小学校の先生とかええんちゃう?凄く人気出そうやし」

航也はそう言うと、何故かウインクを風に向けて決めてきた。

「まぁ、いいけどなぁ。でも少子化で将来的には不安が結構あるんじゃないか?」

意外にも瑠璃は真面目で、算学にも意見を述べる様に促した。

「俺は……俺は……」


算学は思い出そうとしていた。幼き算学と風が夢について語った時の頃を。然し、思い出そうとしても頭の中に靄の様な物がかかり、結局思い出す事は出来なかった。代わりに別の事を思い出した。それはあの頃の風の特徴についてだ。今の風とは違い、髪は短くて身長は今とは違い、差が余りなくて何よりも変えようが無い特徴があった。それはあの頃の風のおでこの右端には小さな小さなホクロが三つあり、そのホクロの間に線を描くと、三角形が出来る事だ。気になった算学はどうやって上手く風のおでこのホクロを確かめようか考えていた。今は丁度おでこの右端は髪の毛で隠れてしまっていた。

「そうだ。夏祭りで確かめよう」

「夏祭り? そうやそうや。それがあったわ。夏祭り行くやろ? やっぱり?」


算学はしまったと思い、瑠璃の様子を見ていた。瑠璃も夏祭りがある事を思い出したらしい。

「せっかくだから皆で夏祭り行こう! 算学は始めてだろうし、な?」

この時、算学は心でこう思っていた。

「(久しぶりだな。心の声タイム。俺と風が二人っきりでいる状態を潰す作戦か? 中々やるな、ライバル。風はどう出る?)」


算学は今度は風の様子を見ていると、ハンバーガー二個目を頬張りながら言った。

「ゴメンね……ちょっとその日は他の用事があって夏祭りには行けないんだ」

算学は風の言葉を受けて算学はこう思った。

「(おいーーー!! 何だよ、他の用事って、聞いていなんですけど……)」

でもこの時、風はこっそり算学に向けてぐっとポーズをしていたが、算学は気づかなかった。

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