第34話・人生難問

「成程な。算学は妻に会ったのか」算学数さんがくすう鳴子遠なることおいは、職員室の隣の空き室で話す事になった。遠の妻である鳴子麻耶なるこまやは、以前算学が弟の算学計さんがくけいのお墓参りに行った際、出くわした。オマケに算学の母算学理恵さんがくりえが計を殺した事を知っていた。つまり、その夫である遠もその事を知っていると算学は睨んでいた。


「結論から言うと、君のお母さんが君の弟を殺した事を知っている」

算学は表情を変えない。真剣な面持ちから。

「この事は誰にも口外はしない。それに、君は一度可笑しいと思った事は無いかい?」

算学はその事の見当がつかず、顔を横に振った。遠は深呼吸すると言葉を選びながら問いかけた。

「この作品サスペンス調になってきてないか?」


「何言ってるんすか? 先生まで」

鳴子が急にボケたが、算学はモチベーションを崩さず、ツッコミを入れた。

「先生嫌だよ。謎が沢山あって重い空気あんの。内の妻が何か企んでいると思っているんだろ。企んでいるじゃないの、別居してんの。別居」

算学はため息をつくと、部屋を出ようと扉に手をかけた。

「待ってください! 今別居って!」

「うん、別居。弁当じゃないよ。お腹空いてないよ」

算学は冷めた目線を鳴子に注いだ。再び算学は扉に手をかけた。

「これだけは言っとく。俺は君達の味方だから」




「貴方はもしかして小倉さんの真依さんのお母さんですか?」

東城風とうじょうふうが息を呑んだ。八乙女胡桃やおとめくるみはニヤリと笑った。女性は頭を下げて膝を地面につき、土下座の体勢になった。

「ありがとうございました。本当に」

風は恐る恐るその女性の顔を伺おうとした。風はその女性の表情を見て言葉を失った。泣いていると思えたその女性は笑っていたのだ。

「まさかこんな簡単に死んでくれるなんて。今まで苦労したわ。どうやったら私が罪に問われることなく、あの子を殺す事が出来るかを」

その女性は立ち上がり、胡桃の肩に手を乗せて笑顔を保っていた。

「でもこの子のおかげでようやく願いが叶った。嬉しいわ、お母さん」


「あらまぁ、そんなに嬉しいんですか? どうやら共感出来ない人が約一名、目の前にいらっしゃいますわ」

風は怒りを覚えていた。しかしそれと同時に恐怖を感じていた。その恐怖の余り口を開くても口を開く事が出来ず、胡桃が風の口をつまみ上げた。

「喋れないのかなぁ?残念。特別に教えて上げるよぅ。私、数君の”元カノ”だからね。」




胡桃と真衣の母は立ち去り、

風の頭の中に胡桃の言葉が何度も連続して残り続けていた。

「お母さんが人殺し……元カノ……算学君に元カノ」

「何そんな所で突っ立てやがる」

風の後ろから聞き覚えがある声がしたと思い、風は振り返った。そこには鳴子と話を終えた算学が自分の鞄と風が学校に置き忘れて帰った鞄を持ってきた。算学は風の鞄を風の目の前目掛けて投げた。

「よくこんな重いもん忘れて帰れたな」

風は言葉が出なかった。未だに風の頭の中には先程の出来事が衝撃過ぎていっぱいだった。算学は頭をかきながらため息をつくと、風に近づき、算学は風の顔をいじり、無理やり笑顔を作ろうとした。

「お前の絶望した顔何度見りゃいいんだ。家に行くぞ」


算学は風のアシストしつつ、風の家に風を送り届けた。算学は風の家の玄関前に風を送り届けると、さっさと算学も帰ろうとした。

「ありがとう。明日の数学部楽しみにしてるから」

算学は後ろを振り向かず、手を振った。風は無理やり笑顔を作って算学を見送った。

「明日も数学部かよ。一人で学校来いよ」




夕食後、風は母東城翔子とうじょうしょうこの部屋にて話を翔子と二人ですることにしていた。そんな様子を父東城小正とうじょうこしょうは翔子の部屋の前で盗み聞きしていた。

「前ニュースになっていた知人のお父さんの事なんだけど」

風はこうして一体一で翔子と話す事が久しぶりの為緊張していた。その緊張が伝わったのか翔子はミルクがたっぷり入ったコーヒーを風に対して入れた。

「これ飲んで……確か私の担任の先生の苗字が小倉だったわね。……まさか」

「そのまさかなの。これって私達家族と小倉家が関係あるって事じゃないのかな?」

真依の父は翔子が高校生の時の担任の先生であり、その担任の先生は翔子に対して好意を抱いていて、当時付き合っていた小正を殺そうとしたが、代わりに小正からお金を騙そうとした男性が殺されてしまっていた。


「つまり、話をまとめると真依ちゃんだっけ? その子の父親が小倉先生で、因果関係がありそうと言う事ね」

「因果関係とな。殺されそうになった本人も黙っていられないな」

風と翔子が話している中、翔子の部屋の扉が空いてさっきから盗み聞きしていた小正が翔子の部屋の中へ入ってきた。

「悪いが、聞いてしまった。悪い。すまない、二人を巻き込んでしまって」

小正は二人に対して頭を下げた。娘にも影響が出てしまって事が大きくなってしまった事、自分の不甲斐なさで妻が過去を思い出し、嫌な想いをさせてしまった事に対して小正は思うところがあったのだ。


「それじゃあ私と貴方が結婚しなくて、風達が生まれず、私は小倉先生と結婚した方が良かったみたいじゃない」

翔子は小正が頭を上げるようお願いした後、小正が頭を上げた瞬間に翔子は小正にキスをした。その瞬間風は若い小正と翔子の姿が見えた気がした。風は静かにその場から立ち去って二人っきりの時間を作ってあげようと専念した。




「大丈夫か。今日の数学部は」

算学は珍しく風の事を心配して数学部の活動をし始めた。それから暫くして風が背伸びをした後に算学に質問した。

「ねぇ、今日私がこの難問解けたらさぁ、一つ大事な質問していい?」

すると算学は嘲笑った。算学も風に質問した。

「いいだろう。その難問が解けたらな。代わりに俺がこの難問を解けたら俺の願いを聞いてくれ」

そう算学が持っていたのは数学の教科書ではなく、現代文の教科書だった。算学は数学は得意科目だったが、現代文が特に苦手科目だった。

「数学部なのに、現代文なの? 部長が部活動とは関係ない事していいの?」

「部長だからいいんだ」

そんな算学の言葉は無茶苦茶だと思ったが、風は了承する事にした。そんな反面ずっと気になっていた。算学が。




豊海瑠璃とようみるりは手紙の続きを書いていた。一日少しずつ書き上げていて、一文字一文字を丁寧にを心がけて。

瑠璃の部屋に写真が一つ今日また増えた。

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