第30話・死への道
病室には静かに眠る
「再発ですか?」
風は病室にいた医師に聞いた。以前弥生は交通事故にあった事があり、ほぼ無傷で普通に生活を過ごしていた。しかし、医師によると脳に前に無かった異常が見られたらしい。治るかは分からず、何時目覚めるか分からないらしい。
「恐らく交通事故とは関係性はあるだろうね。君はこの子の友達かい? ……力になれなくてごめんね」
その医師は病室を出て、妹の
その夜自宅に帰り、夕食の時間を家族で迎えていた。
「何落ち込んでんだい。お義母さんから何聞いたんでい!」
小正が明るく振る舞うが、風と翔子の反応が無い。変わって翔子も明るく振舞った。
「弥生ちゃんは二人が落ち込んでいる姿見たいと思う? ほら、スマイル。スマイル」
風は黙って立ち上がり、自分の部屋へと行ってしまった。それに倣って柚も立ち上がり、自分の部屋へと行こうとするが、小正が呼び止めた。
「待って。待って。この作品ラブコメなんだからさぁ、もうちょっとコメディ感ないとさぁ」
柚は無反応だったが、翔子が小正に対して軽くビンタを食らわした。
「TPO考えようか」
風は自分の部屋のベットに入り、天井を見上げて悲しみを堪えていた。
「帰ってくるよね? 何時も何時もの日常が。私の一番の”友達”でしょ?」
風と弥生の出会いは物心が付く前にも遡る。そんな前から一緒に遊び、笑い、時には喧嘩もした。でも直ぐにお互いが謝って絆を深めてきた。小学校に入って直ぐに弥生はいじめられた。弥生の性格は真面目で頭も良く、ちょと上から目線だっためである。風が庇い、今度は風がいじめられた事もあったが、担任の先生、
そんな二人だから、どちらかが欠けるという事は二人にとって最悪な事であった。
風はまた弥生のいる病室に訪れると算学の姿があった。
「落ち着いたか? 少しは」
算学は目線を合わずに質問し、風も目線を合わずに顔を縦に振った。距離が近づいたはずの二人は何故か前より距離が遠くなった事を感じていた。
「三毛ってどういう奴なんだ?」
算学は続けざまに質問した。
「私の一番の友達。真面目で頭も良くて、仏頂面の時が多いけど、本当は素敵な笑顔の持ち主で」
風は話している内に益々悲しみが増す。
「三毛はまだ死んでねぇ。一番の友達なら、お前は信じて待ってるべきだ」
風は涙が出そうになるが、堪えた。
「分かってるよ! 信じて待つ。そのつもりなのに、最悪な事を考えてしまうんだよ!」
算学は急に立ち上がり、風に近寄り、風の体を強引に算学の方へと振り向かせた。
「人間なんだから、最悪な事も考えちまう。でもそれと同時に明るい事も考えられるだろ! お前が好きな三毛の笑顔また拝もうぜ!!」
この言葉に風は心を動かされた事を感じた。風は静かに涙を流した。
「一緒に三毛を待ってやろうぜ。風」
八月はお盆前。町も帰省ラッシュで沢山の人が顔を覗かせていた。そんな中風と算学は学校にて数学部の活動をしていた。風は地道に数学の苦手意識が減っていって、解くスピードも上がっていった。二人は一言も喋る事なく、活動終了時間を迎えた。
「今日はこの辺で終わるか。だいぶマシになってきたな」
算学は風を弄りつつ、頬が緩んでいた。風は何度この時間を好んで待っていたんだろうかと考えていた。それと共に弥生を置いて私だけがいい思いしていいのか。という罪悪感もあった。
「一緒に帰ろう」
風はすっとそんな言葉を出して、算学はちょっとしどろもどろになった。算学は暗い表情に変えた。
「お前に言いたい事がある」
風はその言葉にドキッとするが、暗い表情の為風も少し気持ちを落ち着かせる事に専念した。
「手紙の事? 読んでくれた?」
が、算学は暗い表情のままで言葉を振り絞るように答えた。
「俺は人を殺した」
今日の天気は晴れで雨が降る可能性はゼロに近かったが、雨が徐々に強さが増していった。
「はっ……どういう事? 私の聞き間違いだよね? そうだよね?」
が、算学は顔を横に振った。
「弟を殺したのは俺なんだ」
雨が益々強くなっていく。風は無意識に後ろに下がった。
「何を言ってるの? ふざけるのもいい加減にしてよ……」
「警察にも連絡しろ。ほら、早く」
算学は風に歩み寄り、風は後ろへと下がった。
「もう一度言う。俺は弟を殺した。だから、警察にも連絡しろ。今すぐに」
風はスマホに手をかける。電源を付けて電話アプリをタップしようとするが、風が電話をかける前に逆に電話がかかってきた。電話をかけてきたのは
「風さん? 大変です! 落ち着いて聞いて下さい!」
が、今の風には染杏の声がまるで聞こえてこない。算学は強引にスマホを取り、代わりに算学が電話に出た。
「何だ? 風はほぼ死んでる」
「えっ!? この声は算学さん!? ど、どどう、どういう状況ですか!?」
染杏は急に算学が電話に出た為、驚いたが、取り敢えず話の要件を話した。
「算学も関係者なんで、よく聞いて下さい。……小倉さんが亡くなりました」
「私達は彼女を救えなかったのかな……」
風の声はもう蚊の鳴くような声しか出なかった。算学は聞き取り、溜息をつき頭をかき、口を開いた。
「死んで正解だったのかもな」
最低の言葉に怒りをぶつけようと思ったが、風の体に力が入らず、算学は先にそのまま帰っていった。
「私こそ死んでもいいんじゃない」
風は雨の中、窓を開いて三階から飛び降りようと窓の手すりに足を掛けた。
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