第29話・波瀾万丈

「嬉しいけどさ……翔子は高校大丈夫?」

隈江翔子くまえしょうこ東城小正とうじょうこしょうの間に子供が産まれた。嬉しさ反面、翔子はまだ未成年で高校生。退学の事を考えなくてはならなくなったのだ。将来を決める大事な時期であった。

「私はこの子をちゃんと産みたい。正直、将来の夢無かったし。それに……」

「それに?」

「学校辞めたら貴方といられる時間が増えるからいや、ずっといられるから」

二人は決意し、子供を産む事を決めて翔子は退学を決意した。


翔子の母の隈江美奈子くまえみなこと父の隈江条くまえじょうにその事を知らせるべく、翔子と小正は実家に戻る事になった。が、翔子のケータイから電話があった。美奈子からであり、涙声で酷く疲れた様子だった。

「お父さんが死んだ。信号無視した車に跳ねられて」




二人は子供を授かった事を美奈子と条に言えずじまいで、数日が経ってしまった。条が亡くなったショックが美奈子にあるからだ。翔子は仕方なく一人で担任の先生に話があると言い、子供を授かった事を打ち明けた。

「何やってんだ!! 未成年で妊娠だと!? 周りに知られれば学校の評判がガタ落ちだ!! ……校長や教頭も呼んでくるから、そこで待っとけ!!」

翔子は相談室を一人取り残され、泣くのを我慢した。これからが本当の戦いだと思ったからだ。


「退学するしか、無いねぇ」

「両親はなんて言ったの?」

担任の教師、校長、教師の視線が翔子に集まった。

「実は言えてません」

「ふざけるのも大概にしろ!! 両親に言わずお前達で暮らしていけると思うな!!」

担任の教師の怒号が飛び、翔子は殴られる覚悟だったが、校長に止められた。

「翔子さん。先に親に言ってみなさい」

教頭は何か思い出したのか、高校に耳打ちした。すると、校長も何か思い出したようだった。

「そうでしたね。お父さんが亡くなったんでしたね。……成程、私の方から伝えましょう」


結局、校長と担任の教師が実家に訪れ、美奈子に経緯を話した。翔子はこの時、翔子の友達に経緯を話した。翔子の友達は皆揃って応援の言葉だった。そして、残り僅かの学校生活を楽しく過ごす事を誓った。


「ごめんな。色んな迷惑掛けて」

今度は翔子は小正の家に訪れ、二人の合作を作っていた。合作は部屋の床ほぼ埋まるぐらいの紙に絵の具をメインに取り掛かっていた。

「条さんにも子供見せたかったな」

すると翔子から涙が出ると、合作に落ち、絵の具が滲みだした。

「ごめん。だって父さんは私達の間に子供が出来た事すら知らずに天国へ行ったから。それに、友達が私が思った以上に優しくて、私を応援してくれて」

この日は黙って小正が翔子の頭を優しく撫で、優しく抱いて合作製作を後日に回した。




翔子は退学し、暫く通院生活を送っていた。ほぼ毎日翔子の友達が病院に訪れていた。一方の小正は仕事の依頼がぽつぽつと、町のボランティア活動を行っていた。そんな落ち着いた生活にまた水を差す出来事が起こった。小正が町の清掃活動の最中に翔子の元担任の教師と出会したのである。

「お前が翔子の交際相手か。何でお前なんかに惚れたんだろうな」

その元担任の教師の左手にはナイフがあった。

「死ねや!! 俺の翔子を返せ!!」

元担任の教師は持っていたナイフを小正目掛けて刺そうとしたが、小正の目の前に男が現れた。ナイフはその男の心臓目掛けて突き刺した。男は倒れ、最後の力を振り絞って小正に言った。

「……お久しぶりでふね、小正さん。……これで、罪滅ぼしになりまふか?」

その男性は小正を裏切り、小正からお金を持ち逃げしたスーツを着た男だった。


後で警察から聞いた話によると、スーツを着た男は無理やり雇わされ、小正から奪ったお金は全て雇い主に奪われたらしい。その雇い主も警察に無事逮捕された。スーツを着た男は救急車に運ばれている最中、息を引き取った。翔子の元担任の教師は翔子に対して好意を持っていて、その腹いせに小正を殺そうとしたらしい。その翔子の元担任の教師も警察に無事逮捕された。


「あの人も結局騙されていた。俺を騙した罪滅ぼしに俺を庇って……」

小正がそう落ち込んでいる中、翔子が小正の肩を勢い良く叩いた。

「また、落ち込んでる。また自殺しようとすんの? 私をおいて? あの人には悪いけどさぁ、せっかく救われた命なんだから、大切にしないと」

「……そうだな。やっぱり、翔子がいないと俺はダメだな」

小正が無理矢理笑顔見せた反面、翔子も少し悲しげに見えた。元担任の教師の事が気になっていたのだろう。

「翔子は優しいな。どんな奴に対しても心配して。いつかは疲れてしまうぞ」

小正はさっきのお返しなのか翔子の髪をぐちゃぐちゃにした。

「止めてよ。私は大丈夫だから。貴方に心配されると世も末だね」




時は流れ、翔子は急いで病院に運ばれた。小正は祈っていた。

すると急に産声が響き渡った。

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

その女の子は小正の顔を見ると、余計に産声が大きくなった。

「頑張ったな。翔子」

「ありがとう。小正さん」


その女の子の名前は

ふう

という名前が名付けられた。

「俺と翔子の出会いは俺の絵が風に吹き飛ばされた事だった。それから始まり、風が強い日は俺と翔子に何かしらのイベントがあり、風で悲しい出来事辛い出来事を吹き飛ばして欲しい。そんな理由で風にしました」

翔子と小正は、二人の母の美奈子に名前の発表をしに翔子の実家に訪れていた。

「で、二人は何時結婚すんの?」

その美奈子の急の質問に小正は飲んでいたお茶を吹き出した。

「結婚? 考えてなかったなぁ……」

「えっ? 考えてなかったの?」

小正は翔子の方に話を振ったが、翔子の意外な返しに面を食らった。そんな拍子にお茶が入った湯呑みをこぼしてしまった。




翔子と小正は結婚式当日を迎え、二人の知人が沢山集まり、そこには美奈子の隣に二人の父の条の遺影があった。

「お義父さんも天国で喜んでいるよな」

「勿論だよ」




「私の話は!? 私まだ産まれてないけど!?」

東城柚とうじょうゆずは美奈子に迫った。

「また今度話すね。あれ? 風は?」

美奈子の話中、東城風とうじょうふうは電話が来たらしく、電話に出るため、その場を退室していた。そんな風が部屋に戻ってきた。

「お姉ちゃん! 話の途中に電話とかマナーがなっていない!」

しかし、風は心ここに在らずで

「風? 電話で何かあったの?」

美奈子が心配して恐る恐る質問した。

「弥生が……弥生が……倒れた」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る