第27話・嫉妬する奴、頼らない奴

東城風とうじょうふう達が祖母の家に居て、算学数さんがくすう三毛弥生みけやよいが決心していた頃、

「なんやアイツら!!」

ここに顔をクシャクシャにしながら叫ぶ者がいた。その名は藤谷航也ふじたにこうや糸絹いときぬ高校二年生。今は現在彼女無し。そんな彼は見てしまった。後半へ続く。

「続かねぇ! なんでや、なんで平太と詩画薇がデートしてやがるうぅぅ!」

航也は柱号平太ちゅうごうへいた桜木詩画薇さくらぎしえらが楽しそうに会話しているのを電信柱からこっそり見ていた。


「詩画たんはさぁ、今日何すんのぉ~?」

「あっ!個人情報だぞ~。教えな~い」

「教えて~教えて~」

「教えな~い」

そんな平太と詩画薇の会話が航也の耳に届いてしまった。

「くだらない。くだらない。くだらない」

「くだらないね。その嫉妬心」

「そうそう嫉妬心? 瑠璃!?」

航也が一人熱くなっているといつの間にか航也のすぐ隣に豊海瑠璃とようみるりがいた。近くのコンビニでアイスを買ったらしく、アイスのシャリシャリと音をたてて、頬張っていた。


「何? 今更アイツら付き合っていたの知った感じ?」

「はっ? 瑠璃お前、知ってたん!?」

瑠璃は平太と詩画薇が中学の頃から付き合っていたのを知っていた。航也にバレると周りに言い回したり、嫉妬心に火がついてしまったりと面倒事が起きそうと考え、三人は秘密にしていた。そして瑠璃は航也が昔から詩画薇に対して好意を抱いていたと感じていた。例えば、詩画薇の支払いを代わりに支払ったり、授業中にチラッと詩画薇の方を見たりと分かりやすい言動が多かった。


「詩画薇取られて悔しいんだな」

「そん、そんな、事、ね、ねぇ、ねぇし。平太と、おに、おにあ、お似合いやし」

「相変わらず分かりやすいな。……あっ。バレた」

すると平太と詩画薇 が航也と瑠璃の目の前に立っていた。

「まぁ、いつかはバレると思ったけどよぉ、平太と詩画薇、付き合ってる事今、航也が知りました」

瑠璃が高々に宣言した。すると先に口を開いたのは詩画薇だった。

「そうなんですね。あのぉ、色々すいません」

詩画薇が頭を下げるとそれに倣って平太も頭を下げた。そして何故か瑠璃も頭を下げた。

「なんで頭下げて謝るねん! つぅか、詩画薇敬語やめろよ! 平太とはタメ口なのに!」

瑠璃が航也の隣に移動し、航也の耳に小さな声でこう言った。

「ここで嫉妬心剥き出しにしちゃあ情けないですぜ」

航也はすると走ってその場から逃げ出した。

「そうですよ!! 嫉妬心剥き出しですいませんね!! クソ―――!!」


「何か私やらかしました?」

航也が逃げ出した後、詩画薇は瑠璃に尋ねた。瑠璃は首を横に振った。

「あのぉ、何で詩画たん、詩画薇は航也とか瑠璃とか皆には敬語なの?」

平太の質問には意外な詩画薇の返答が返ってきた。後半へ続く。

「続きません。……お父さんがね、敬語を使いなさい。敬語は素晴らしい言語です。汚い言葉や砕けた言葉を使うなら敬語を使いなさい。もし、詩画薇が心を許す者や詩画薇の事に好意を持つ者が現れた時、砕けた言葉を使う事を許されると言われたから」

そんな詩画薇の言葉を受けて瑠璃は呆れた。

「どんなお父さんだよ……そういえば、お父さんって色んな国旅してるんだったな。一度も会ったことないけど」

詩画薇の父は旅人兼登山家兼写真家兼詩人というマルチな人物で日本には数年に一度しか帰って来ないが、夫婦仲はとても良かった。


「変わり者の子は変わり者ときたか」

瑠璃の独り言は詩画薇に聞こえてしまったらしく、詩画薇は持っていたカバンからカッターを取り出した。

「あっ、すいません。……てか、何でカッター持ってるの?」

すると詩画薇ではなく、平太が代わりに答えた。

「詩画薇は美術部だから。よく使うもんね、工作の時」

「いや、小学生じゃあるまいし」

「ん? 高校生が工作してて何か悪いんですか?」

詩画薇は一旦持っていたカバンにカッターをしまったが、再び取り出した。

「本当に工作してんの!? それじゃあ、美術部じゃなくて図工部じゃねぇか」




航也は自宅に帰り、冷蔵庫に入っていたまだ開けてないペットボトルの炭酸を一気飲みした。すると、急いで帰ってきたため、体温が熱くなっている中、冷たい炭酸を一気飲みしたため、お腹に痛めた。

「しくった! 今日は本当に”失敗”だらけやな……」

後半へ続く。

「もう、続かんといて……」




「愛しの娘達よ。さらばだ」

風達は祖母隈江美奈子くまえみなこの家に訪れていた。その二日目の朝を迎えており、朝食は済ませ、風の父東城小正とうじょうこしょうと風の母東城翔子とうじょうしょうこはそれぞれ仕事や近所の手伝いがあるため、帰る事になったのだ。

「お世話になりました。お母さん。風と柚をよろしくお願いします」

「翔子、また喧嘩したら家においでなさい」

「なんでお義母さん、喧嘩する前提なんですか……今日はとことん翔子に甘えます!」


「最後までキモかったね。パパ」

小正と翔子は帰り、風の妹東城柚とうじょうゆずは毒づいた。

「そんな事より、おばあちゃん! 昨日の続きを!」

「あんまり急かさないの、柚。あんまり無理しなくていいからね。おばあちゃん」

風は柚を軽く叱り、美奈子の肩を揉んだ。

「風は翔子と似て優しいねぇ。ウチは珍しく反抗期というものが無かったからねぇ。風も無いだろ?」

「まぁ、そうだね。私、家族が大好きだから」

「お姉ちゃんだけズルい! 私も家族大好きだもん! パパはキモイけど」

そんな柚の様子を見て風と美奈子は爆笑した。




算学は自宅に帰り、ポケットにキャンプ場にて風から渡された手紙を取り出して、少し迷い、手紙を読んだ。手紙の内容は次の通りだった。

「算学君へ。

手紙でしか伝えられなくてごめんね。昨日と今日のキャンプ楽しんでくれたかな?柚の事で大変だったけど、楽しんでくれたら、私は嬉しい。私は貴方に告白した。まぁ、いきなり結婚してくださいとかふざけた話だよね。でも、それぐらい私は貴方の事が好きになったのかもしれない。かもしれないというのはちょっと自信が無いから。それに貴方には暗い過去がありそうだから、私は自信を持つ事が難しい。だから、私を頼って。それとおこがましいかもしれませんけど、”風”と呼んでくれると嬉しい。最後までまとまった内容じゃなくてごめん。また次の数学部で。東城風より」


算学は手紙を読み終えると手紙を破り捨てた。

「すまないけど、お前に頼りたくない」

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