刹那高校二年夏休み編・後編

第23話・夫婦喧嘩

東城風とうじょうふうと妹の東城柚とうじょうゆずはキャンプ場から自宅へ帰ってきた。家の明かりは消えており、静まり返っていた。

「帰ったよ……」

風は自宅にも関わらず玄関の扉を静かに開けた。風と柚はそろりそろりと家に入り、玄関の扉を静かに閉めた。キッチンであろう蛇口から出る水滴が落ちる音が嫌に聞こえた。

「誰もいないの?」

風が確認してみるが、返事は返って来なかった。玄関直ぐの廊下をそろりそろり歩いた。そして、左のリビングを覗いた。すると、そこには魂が抜けた様な風達の父がいた。


「あの……ただいま……」

が、父の返事は返って来なかった。柚がお手製のハリセンで父の頭をぶっ叩いたが、ノンリアクションで終わった。頭をぶっ叩たかれた三秒程後、やっと父が風達に気づいたらしく、風と柚を交互に見ると、急に泣き出した。


「お前達~よく帰ったな~!!」

柚が呆れ顔で冷蔵庫にあるオレンジジュースを一口すると口を開いた。

「なんだ……パパ生きてたんだ……」

その言葉を受けて父はまたあの状態になると思いきや、

「うんうん。ちょっとごめんね。えっと、そのあれだな。生きてたんだは酷いよ。こちとら久しぶりの出番なんだよ。キャンプ場のくだり長いんだよ。一学期編より夏休み編の方が長いってどういう事?ねぇ、どういう事?ねぇ、ねぇ、ねぇ、俺はねぇおじさんか!? 何言ってんだよ!? あっ、俺か!?」


「お父さん少し落ち着いて」

風の冷静な判断で父は一回冷静になった。

「じゃあ、二人とも座りなさい」

風と柚は父に向かい合うように座った。

「え―――私、東城小正とうじょうこしょうは、妻である東城翔子とうじょうしょうこは夫婦喧嘩により、別居する事になりました」


リビングは静まり返った。

「ちょいちょい、リアクションしてくれないとさぁ、父さんさぁ、また泣くよ。泣くからね。知らないよ……」

小正が喋っている途中で泣き出してしまった。風が柚の方に振り向くと同時に柚まで泣き出してしまった。

「ママがいい~パパはイヤだ~ママ帰って来て~」

風は思わず笑ってしまったが、小正の方を向くと泣き止んでいて、鬼の形相で風を睨んでいた。

「なんで笑うの? 失礼じゃない?」


風は話を進めるべく、別居の理由を聞き出す事にした。

「なんで喧嘩して、別居になったのか教えて?」

すると今度は小正は目を輝かせた。

「俺の話聞いてくれるのか?俺は知っている。お前は神と言うのだな」

興奮気味の小正に対して風は冷静で

「いや神じゃない。風。アンタの娘です」




小正は咳払いをして事の経緯を話し出した。風達がキャンプ場に行っている間にあり、昼頃だったようだ。早めに昼飯を済ました小正はトイレに行こうとした際、妻の翔子のスマホを踏んづけしまい、バキッと音をたててスマホの画面に派手にヒビが入ってしまった。ここで直ぐに謝れば良かったんだが、謝らずトイレに駆け込んだ。ずっとトイレに閉じこもってる訳にはいかず、トイレから出て何もなかった様にリビングにて昼寝しようと思った際、後ろに視線を感じた。


「ねぇ、どういう事なの?」

翔子の言葉から察するにスマホに気づいて怒っていると分かったが謝らず、

「なんの事? おやす……」

後ろを振り向かず、しらを切って寝ようとすると、翔子は近くにあった新聞紙を取ると小正の頭を引っ張叩いた。

「何すんだよ!? 今から寝ようとしたのに!?」

思わず小正は怒ってしまった。あっと気づいた時は遅かった。翔子はブチ切れた。


「はぁ? 逆ギレですか!? スマホを踏んづけて画面にヒビ割ってごめんで良くない?」

流石の小正もやばいと思い、謝ろうと翔子に近づこうとしたが、何も床に落ちてる訳でもなく、前に向かって転倒してしまった。それだけで良かったんだが、運悪く翔子の胸に小正の手が触れてしまった。

「この……変態クズ野郎!!」




「クソ―――!!」

小正は思いっきり悔いており、この後翔子は家から出て一度も帰って来てないらしい。寄りによって連絡手段であるスマホも踏んづけてしまったからか壊れて音信不通だと思い込んでいるようだった。

「電話掛けたの?」

全部お父さんのせいという気持ちを抑え込み、風が質問したが、小正は顔を横に振った。本当に壊れたのか、怒って無視しているのかと思ったが、柚が行方不明になった事もあり、風の頭の中には嫌な考えがあった。それは今度は翔子、風の母が行方不明になったという事だ。考え過ぎだと思うが、可能性はゼロではないと考えていた。


「お姉ちゃん? 難しい顔してどうしたの?」

風は気づくと柚が不思議そうに見つめていた。風は心で柚のせいでもあると思ったが、口に出す事は止めた。風は冷蔵庫にある炭酸飲料をラッパ飲みで半分程残っていた分すべて飲み干した。


「おばあちゃんに聞こう!」

風が言い終えた後、大きなゲップをしてしまった。柚から涼しげな笑顔を貰った。風の祖母は家から車で一時間程離れた所に母の姉と住んでいた。つまり、そこに母がいると風は踏んだのだ。風の考えにすぐ気づいた小正は手を挙げた。が、柚が話の横に入った。

「パパの手の挙げ方だったらさぁ、豆腐切れないよねぇ。もっとさぁ、ズバッと素早くシャキンと手を挙げないと。それと、声を上げてはい! って」

すると今度は小正は柚の指摘通りで手を挙げた。

「はい! 今から行きましょう!! おばあちゃん家に!!」

そんな小正を受けてか柚は立ち上がった。

「いざ出陣じゃー!!」




そうしてキャンプ場から帰って直ぐに風の祖母の家へと行く事になった。そんな事を知る由もない算学数さんがくすうは、墓地に足を運んでいた。

算学の目的は算学の弟である算学計さんがくけいで、無論この世にはもういない。

お墓は綺麗な状態とはいえず、お供え物も一つも無かった。

この日算学は花と線香、計が好きだった当時流行ったカードゲームのレアカードを持って来ていた。


「久しぶりだな。俺は何故か今楽しんでいる。なんでだろうな。お前は辛そうで死にたく無かっただろうし、なんで俺だけ報われてしまうんだろう。母さんはまだ生きている。刑務所から知らせが来ていないし……教えてくれないか、あの時に何があったのか。母さんはお前を殺したのか。それとも……うんうん。さ、近い日にまた来るわ。レアカードまだ持ってたしな」

算学はこの場を離れようとした時、声を掛けられた。

「貴方が算学さんね。算学計の兄ね。……そして、人殺しの息子」

お供え物だったはずのレアカードが空に吹かれて飛んでいってしまった。

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