第24話・不器用と思春期と

時は少し遡り、キャンプ場にて。東城風とうじょうふうは他の誰にもバレないよう算学数さんがくすうに手紙を手渡した。手紙は昨夜遅くに三毛弥生みけやよい西尾染杏にしおそあん東城柚とうじょうゆずが寝たのを確認した上で書き上げた物だった。算学ははっ? という顔でいたが、無視してキャンプ場を後にした。


風は車中、算学が手紙を読んでくれたか気になっていた。今は夫婦喧嘩問題の中であるが、気持ちは手紙の方が勝っていた。

「風? なんでワクワクしてんの? お母さん出ていったんだよ?」

風の父である東城小正とうじょうこしょうは車の運転中の中、バックミラーで風の方に視線を向けた。自分では気付かずに体を小さく揺らし、鼻歌までしていた。ここで柚が風の肩を叩くと

「気持ちは分かる」

「賛同するな。父さんな父さんな。俺父さんだよな? うん。父さんだな。父さんな……いや、何回父さん言いたいねん! 何回言ったんだ? もう分からん。てへぺろ!」

「キショ……運転に集中しなさい!」

長い小正の一人喋りに柚がツッコミを入れて一旦落ち着いた。




あっという間に目的地である風の祖母の家の前に着いた。

「お父さん? 緊張してんの?」

風が小正を見ると小正は小刻みに体が震えていた。

「だってさ、電話入れずにさ、今から来るってさ、言ってないしさ、怒られそうだしさ、さささおじさん降臨さ」

「お父さん落ち着いて。さが多い」

小正の一人喋りに風が冷静にツッコミを入れて風が先頭して歩き、祖母の家の玄関の扉を叩いた。


が、反応は無く、留守かと思った途端、小正がいきなり悲鳴を上げた。何かと後ろを振り向くと倒れた小正そして、一人の男の子がいた。

「悪の髭男退治したぜ!」

「あんた確か、鉄平?」

柚が名前の確認をした小正に向けてとびひざげりを繰り出したのは隈江鉄平くまえてっぺい、風の母の東城翔子とうじょうしょうこの姉である

隈江文くまえふみの息子だった。


「なんだお前?」

鉄平の反応にムカついたのか柚は

「口の利き方なってねぇな。私こう見えて小三なんだよ。貴様まだ小学校にも入ってねぇだろ。上下関係守らんかい!」

「何言ってんだお前?」

鉄平の反応で更に柚の怒りがヒートアップする前に風が強引に柚の体を引っ張り出した。


「騒がしいな……ん?皆総出で来たのかいな」

玄関の扉が開き、中から風の祖母である隈江美奈子くまえみなこが出てきた。




「ほら、来たぞ。塩さんが」

「塩じゃないです。小正です」

お約束もあった上で居間に入るとそこにはぐっすり昼寝中の翔子がいた。

「寝てるのかいな……どうする? 砂糖さん?」

「起こすのも悪いからちょっとここで待たせていただきますね。それと小正です」

そんな訳で風達は翔子が起きるまで美奈子の家で待つ事になった。


「話は聞いている。夫婦喧嘩して私の所まで翔子が来たんだってねぇ」

翔子が寝ている居間とは別の部屋にて話の整理する事になった。美奈子は翔子からある程度の話は聞いていたらしい。

「すいません……私が悪いです。それと、いきなり連絡無しに来てすいません」

小正の言葉を受けて美奈子は軽く頷いた。

「謝罪の気持ちがあればそれでいい。せっかく来たんだから泊まっていき」

「大丈夫ですよ。お義母さん。直ぐ翔子と一緒に帰りますので」

「いや、遠慮しなくていいのよ。それとこの子達ともっとお喋りしたいし……」

そう美奈子が言うと、小正の隣に座っていた風と柚の方に目線をやった。

「パパさぁ、泊まろうよ~」

柚の後押しもあって結局美奈子の家に一晩泊まる事になった。




「さてさて、色々話そうかねぇ」

小正は部屋から退室して三人の女子トークが始まった。

「それでは……好きな子でもいるの?」

その美奈子の質問で部屋が静まり返った。

「おばあちゃん? いきなり凄い質問するね?」

「そう? 普通の質問だけど」

美奈子は笑い、柚が手を挙げた。

「はい! います!」

「いんの?」

柚の思わぬカミングアウトに風は驚いた。


飛雄馬ひゅうま君です!」

「飛雄馬君? 同級生かな?」

美奈子のこの反応を見て風は思った。幾ら年老いてもこういう話は大好きで、私と同じぐらいの女の子に見えてくると。その後も柚と美奈子の熱いトークが繰り広げられた。そんな中、自分のターンにきてしまった。


「えっと……いないかな?」

「またまた~。思春期って良いわね~。本当はいるんでしょ~」

そんな美奈子の言葉を受けて風の頭の中にどんどん算学の顔が浮かんでいった。風をいじる時の算学、デレた算学、真面目な算学、ポカンと算学と色んな顔が頭の中に出てきたが、強引に消した。

「いないから……今は」




「ん? ……はっ! もう夕方じゃん!」

翔子は目が覚めて翔子の隣には小正が寝ていた。そして知らず知らずにタオルケットが翔子と小正、と同じタオルケットでかかっていた。

「来たのね……もう、不器用な人なんだから。寝顔もなんだか赤ちゃんみたい」

そう言うと翔子は小正の頭を優しく撫でて夕食の調理に移った。




「流しそうめんや!」

夕食のメニューは、炊き込みご飯、カツオのたたき、豚しゃぶ、竹製の流しそうめんと豪華なメニューとなった。

「ん? 騒がしいな……寝てた!!」

小正もやっと眠りから覚めて翔子を見つけると直ぐに土下座をした。

「スマホを割ってすいません! 以後気を付けます!」

「うんうん。私の方こそごめんなさいね。机にスマホを置いてなかっからねぇ。……さ、一緒に夕食しましょう!」

翔子の反応に小正は涙ぐみ、翔子を抱きついてしまった。

「全く……本当に子供なんだから、それと胸に触れてる」




「お前は何者だ?」

算学は墓地にて知らない女性に会っていた。

「ごめんなさいね。名前も名乗らずに。私の名前は鳴子麻耶なるこまやです」

「鳴子麻耶? まさか……鳴子先生の奥さん?」

算学の今の担任教師は鳴子遠なることおいであり、同じ苗字な所からそう思ったのだ。

「ピンポーン! あの人もバラさないなんてどうかしてるわ」

「一体俺に何しに来た?」

算学は知らない内に体が震えていたのに後から気づいた。麻耶は算学にゆっくり近づき、耳元でこう呟いた。

「大丈夫よ。貴方の将来きちんと潰してあげるから」

そう呟くと麻耶は墓地を後にした。


そんな中、隠れて弥生が様子を見ていた。たまたま算学を見かけて後を付けてきたのだ。が、誤って近くに落ちていた缶に足が触れてしまい、算学と麻耶に気づかれてしまった。

「あらお嬢ちゃん? 見ていたの? いけない子」

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