第21話・花火恋バナ

東城柚とうじょうゆずはポテチを頬張った。次から次へと頬張った。本当に一人だけ楽しい時間だったようだ。そんな柚の目の前には三毛弥生みけやよいがいた。じっと柚がポテチを食べているのを見ていた。


「弥生姉どうしたの? ポテチ食べたいの?」

そういう柚だが、ポテチの袋の底が見えていた。

「まぁ、それもあるけど……知らない人について行っちゃダメだよ。もう小三なんだから」

弥生は呆れ混じりに柚に説教した。

「お姉ちゃんの友達と違うんか?」

柚はポテチを頬張りながら答えた。

「……まぁ、柚ちゃんが無事だったから良いものの……」

弥生の説教タイムの中、柚が手持ちのカバンからもう一つのポテチを取り出した。


「はい、はい。説教は肌に良くないですよ。ほら、アンタポテチでもつまみなさい。一袋全然あげるから」

弥生は柚からポテチ一袋を受け取った。

「……ありがとう……いや、ポテチこそ肌に良くない……てか、本当に小三?」




藤谷航也ふじたにこうやが声高らかに叫んだ。

「色々あったけど、やるでー!!」

しかし、テンションが高いのは航也だけだった。東城風とうじょうふう西尾染杏にしおそあん、《とようみるり》は事の一件、小倉真依おぐらまいの事がやっぱり心残りになっていた。


「ここはキャンプ場だ。お葬式に来たのかい? お悩み相談所かい? 答えは否、やるべき事は楽しむ事!!」

航也は熱く語り終えた後、瑠璃が立ち上がった。

「……そうだな。俺達他人の事とかすぐ気にし過ぎなのかもしれないな。、アイツなら大丈夫だよな。本当は良い奴っぽいし」

瑠璃が一語りした後、染杏のスマホに一つ着信が届いた。


「真依ちゃんからです」

染杏の言葉で一斉に染杏に向けて視線が注がれた。

「えっと……色んな写真が送られてきました」

その写真は染杏と真依が写った写真だ。全部他の生徒も混じっていた。次に色んな景色の写真があった。自然や建物、風達が知っている景色や知らない景色があった。最後の写真には小さい頃の真依が写っていた。少し照れくさそうにピースサインをしていた。そして最後の一文、


「ごめんなさい。ありがとう。また今度ね」


その一文を読んで染杏は涙が出てきた。スマホは涙の粒で埋まっていった。その様子を周りは静かに見守っていた。


「よし、じゃあ綺麗な花火やるでー!!」

航也は改めて声高らかに叫んだ。続いて風が立ち上がった。染杏の手を取って。

「やるぞー!!」

風が叫ぶと、染杏は涙を手で拭い、笑って

「お―――!!」




各々花火を楽しんだ。一人花火をしている算学数さんがくすうに風は隣に近づいていった。その様子を弥生はこっそり見ていた。

「結局一人で行動するのね」

算学は風の言葉を無視して、口を開いた。

「なぁ、そろそろ名前で呼べよ」

「えっ?」


「出たよ。えっ?」

風はずっと口を開けっぱなしだ。

「もしもし~? 馬鹿女?」

算学の弄りに風はハッとして算学の顔面に向かって平手打ちをしてしまった。


「ごめん! 大丈夫?」

算学は平手打ちを食らい、吹き飛んだが、よろめきながら立ち上がった。

「いきなり何すんだよ……」

「アンタが馬鹿女って言うから」

算学は溜息をつき、口を開いた。

「だからって平手打ちは無いだろ……よし、名前呼び許可は取り消す」


「はい? なんでよ!」

風は怒りを露にした。が、よくよく考えた。なんで名前呼びが出来ない事に怒ったのか。風はその答えを直ぐに思いついてしまい、顔がみるみる赤くなった。算学とそっぽ向くと、弥生と目が合ってしまった。

「不味い……見られた……」


「なぁ、風」


「なんや! こっちは恥ずかしい……オモイヲ……」

算学はいきなり風の名前を呼んだ。しかも思い返せば東城とも呼ばれていなかった。今までよくやっていけたものだ。


「なんだ、恥ずかしいのか? 名前呼ばれただけで」

算学は淡々と喋っていたが、自然と口が笑ってるように風は見えた。




「順調の様で」

風は今度は弥生とこっそり二人で花火をしていた。そんな中、弥生に茶化されていた。キャンプ場にて弥生は風が算学を好きな事を告白していた。

「そんなんじゃないもん!」

風は子供のように意地を張った。

「平手打ちするとはどうなるとは思っていたけど……いいね。恋って」

弥生がこんな話をするのは初めてだった。

「弥生ってさぁ、恋とか興味あるの?」

すると、弥生は花火を置いた。


「どうなんだろうね。ぶっちゃけ私年上が好きなんだよね」

弥生の言葉に風は衝撃を受けて、思わず服に花火が引火する所だった。

「年上好きなんだ……どれくらい離れててもいいの?」

風は立て続けてに質問した。


「五十代ぐらいまでかな」


「そうか、五十代か……五十代!?」

風の驚いた声は予想以上に大きく、すぐさま瑠璃と柚が飛んできた。


「なんだ、なんだ? 蚊にでも刺されたか?」

スっとんきょんな事を言う瑠璃に対して

「恋バナでしょ。このアホ毛センサーがビンビン反応してまっせ!」

とアホ毛が無いのにも関わらず柚が言ってきた。


「はいはい、何もありません。関係者以外立ち入り禁止となっております」

風は瑠璃と柚を強引にその場から離した。


「で、五十代とか正気ですか?」

風は興味津々で弥生に質問した。

「ドラマとか見ててこの俳優さんカッコイイとか、選挙のポスター見てカッコイイとか、あとそれから……」

弥生の話は予想以上に長く、風が眠気の限界に近付いていった。



風は何故か学校の屋上にいた。夕暮れ時で誰かもう一人いた。

下から学校靴、男子の学校のズボン、男子の学校の半袖そして……白髭に黒縁メガネ、白髪というあの人気フード店舗の人気キャラクターに似たおじいちゃんがいた。そしてそのおじいちゃんの口に風が吸い込まれていった。


「お前は五十代違うわ!!」


風は気づくと弥生の目の前にいた。瞬きをした。もう一回瞬きをした。

「そうか……夢か……」

どうやら弥生の長い話についていけず、風は寝てしまったらしい。一方の弥生の頭の上にははてなマークが浮かび上がっていた。

「夢? 寝てたの? 五十代違う? 情報量多すぎて意味わからないんだけど……」




「風……照れたアイツやっぱり可愛いな……」

算学は星を眺めながらしみじみとしていた。

「風がどうかしたの?」

算学が一人でいる所に瑠璃がやってきた。そして心の声で算学は思った。


「(あっかーーーん!!)」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る