第20話・小倉真衣(おぐらまい)
その後は何度も引き取たれた。血の繋がりの無い親達に。誰一人も真依の心は開かれなかった。手を挙げられたり子供が既にいる家族だといじめられたりしていた。しかし、学校では真依を慕ってくれる同級生がいた。でも上辺だけだと真依は思っていた。人が信じられきれなかった。誰も逆らう人はいなかった。それだけマシだと自分に言い聞かせていた。
「まぁ、本題はここから。探し物があるのでは?」
真依は不敵な笑みを浮かべた。
「柚をどうしたの!? 柚は柚は!?」
「条件があります。この私を”自由”にして下さい」
真依は不敵な笑みを止めて、暗い顔で風を見つめた。真依の瞳には闇が広がっているように見えた。それを受けて風の怒りは少しだけ収まった。それと思わぬ返答に戸惑った。
「”自由”にってどういう意味?」
「私には何も無かった。誰もいなかった。だから自由が欲しかった」
真依の説明を受けても風達は分からなかった。
「なんで……なんで……良かったのに……私で」
真依達は突然の染杏の行動に呆気に取られた。
「私に話してよ。本当の”真依ちゃん”を見せてよ。私が……私が支えるから。力になるから」
染杏の声は古い小屋の中むしろ、雑木林の中に響き渡った。そんな中真依は染杏を払い除けた。
「あんたとは”友達ごっこ”は終わったから」
「あのさぁ、”まっさらに”すればいいじゃん。”素直になればいいじゃん。”」
その言葉を受けて真依は算学の顔を殴ろうとしたが、算学が話を続けた。
「信じてみろよ。西尾の事。今までいたか? こうやって当たってきた奴が。……ついでに俺も”友達”やってやるから」
真依は泣き崩れた。泣く事が初めてだった。こんなに自分に対して正々堂々とぶつかってきた人がいなかった。風達は安堵の気持ちになっていた。が、急に真依の目付きが変わるのに気づいた。それと同時に真依の体が震え始めた。
「どうしたの? 真依ちゃん……」
染杏が呼び掛けると、真依が泣きながらゆっくり染杏を見つめた。染杏はその真依の様子を見て悪い予感がした。
「誰かに脅されているの?」
染杏が真依に質問すると、真依は両耳を手で抑えて叫んだ。叫びながら真依は古い小屋を抜き出してしまった。そうして真依の姿は雑木林の中に消えてしまった。
「追いかけた方がいいんじゃない?」
風は四人に確認すると頭を縦に振った。外は急に雨が降り出し、辺りは真っ暗で最悪のコンディションだ。
「流石にこれで追いかけるのは不味いか……」
瑠璃は苦悶の表情を浮かべた。それに加えて
「もしもし? 風? やっと繋がった……」
声の主は弥生だった。風達が口論している中、弥生は雑木林の中を抜け出してキャンプ場の方へと戻ってくる事が出来たらしい。
「弥生!? 無事なの!?」
風は弥生の安全を確かめた。
「何とかね。拘束された後、意識も飛んでたけど、直ぐに意識が戻って……柚ちゃんに縄を解いて貰ったんだ」
すると直ぐに風の耳に柚の声が届いた。
「お姉ちゃん? 何してんの?」
「柚? こっちのセリフよ!!」
風は怒りと笑いそして、安堵の気持ちでいっぱいだった。
「お腹空いたし、帰ってきたんだよ。弥生姉と一緒に」
柚は柚と弥生の行方不明について一つも理解していないらしい。柚だけが楽しい一時だったらしい。弥生の拘束も見た時、真依と弥生の何かの遊びだと思っていたらしい。
「DNAは侮れん……」
風は思わずそんな事を口にした。
「じゃあ、小倉真依は見てないの?」
風は弥生からの電話にて質問した。
「私を拘束したやつね。目が覚めるともういなかったわよ。……それがどうかしたの?」
風は事の一件を話した。真依との口論の事を。真依の知られざる望みを。
「そうか……本当は悪い子じゃないのかもね……それに、糸を引いている人がいるのかもね」
風の頭の上にはてなマークが浮かび上がった。
「糸を引いている人? コンニャクの次は納豆か……」
今度は風の言葉で弥生達の頭の上にはてなマークが浮かび上がった。
「今のタイミングでふざけるのかよ……」
算学と瑠璃のダブルツッコミを受けて場は和み、いつの間にか雨は上がり、空には星々が見え始めていた。
小倉真依は一人の女子生徒に会った。その人は私の悩みを聴いてくれた。こんなの初めてだった。自分の考えを肯定したり否定して正したりしてくれた。そんなある時お願いされた。生まれて初めてのお願いだった。
「東城風と豊海瑠璃との距離を引き離してくれない?」
思わぬお願いだった。そもそも東城風と豊海瑠璃という人間の名前を初めて聞いた。でもやる気満々でお願いを叶えるべく色々試した。しかし、何もかも上手くいかなかった。
そんな時に別の女子生徒に会った。西尾染杏だった。彼女は自分と同じ雰囲気を感じた。そして漬け込んだ。彼女の豊海瑠璃に対する恋の感情を利用した。しかしまた、”失敗”した。そしてあの人からダメ押しを食らった。
「これ以上、東城さんと豊海さんを近づけさせてはいけません。……最後の忠告だと思ってくださいね」
こんなつもりじゃなかった。あの人の正体を見抜いていなかった。結局今回も”失敗”した。
真依は一人雑木林の中を歩いていた。髪もぐちゃぐちゃで濡れていた。
「すいません……力に及ばなくて……」
真依の目の前には一人の人間が立っていた。
「分かりました。だったら、さようなら。二度と顔を見せないで下さいね」
そんな二人の周りだけ雨が降り注いでいた。
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