第19話・探した先

東城風とうじょうふうは探していた。妹の東城柚とうじょうゆずだ。キャンプ場にいる人に聞いてみるが、誰も柚を見ていないらしい。辺りは暗くなっていて沢山の蛍が飛び交っていた。 そんな中、算学数さんがくすうが四股を踏んでいるのを見つけてしまった。しかも無表情だ。


「何やってんの?」

見なかった事にするという能力は風には備わっておらず、算学に話しかけた。算学は無表情のまま風の方に振り向いた。

「四股踏んでいる。そんな事も分からないのか?」

見なかった事にするという能力は備わってないが、聞かなかった事にするという能力は備わっていた為、算学の冷たい言葉は聞き流した。


「それより何慌ててんだ?」

質問しつつ、算学は四股を踏むのを再開した。

「柚が行方不明なの!」

算学の態度にイラついた風は少し言葉が荒くなってしまった。それを聞いた算学の動きが止まった。顔は風の方には向いていないが、今の状況は伝わったらしい。

「えっと……知らないよね?」

風の質問に対して算学は立ち上がり、頭かいて面倒くさそうに言った。風の方を見ずに。

「貸しだからな。姉なんだからきちんと妹を見ろや」

鼻につく言い方だが、素直じゃないながらも探してくれる算学に風はまた心惹かれた。



風と算学は手分けして探していた。探し始めて三十分経ち、豊海瑠璃とようみるりから連絡が届いた。瑠璃によると目撃者がいて、一人は柚と思われる女の子、もう一人は女子高校生ぐらいの子が雑木林の方に行ったらしい。取り敢えず瑠璃と合流する事にした。



「こっちや。こっちや」

そこにいたのは瑠璃ではなく、瑠璃達の友達の藤谷航也ふじたにこうやだった。瑠璃は急な下痢でトイレに行ったらしい。

「この雑木林に入っていったらしいんや。辺り既に暗いし、雑木林の中だと闇その物や。やから俺の懐中電灯使っていくで」

航也の説明に風と算学は頷いた。そんな中、トイレから瑠璃が戻ってきた。


「待たせたな。肉の食べ過ぎで」

瑠璃はトイレに行きたくなった理由を言ったが、

「今関係ないでしょ? 我い!!」

風は瑠璃の態度にキレた。それは当然の事だ。妹の柚が行方不明なのだから。

「ごめん……そうだよな。俺だって弟や妹がいたとしたら俺もキレるよな」



風、算学、瑠璃、航也そして後から合流した西尾染杏にしおそあんは懐中電灯を持った航也先頭に雑木林の中を歩いていた。五人は一言も喋らず、不気味な雰囲気が漂う雑木林を進み続けた。ふと航也が地面に何か落ちてるのに気づいた。

「なぁ、こんなん所に眼鏡とショルダーバッグ落ちてるで」

落ちていたのは弥生の眼鏡とショルダーバッグだった。それが弥生の眼鏡とショルダーバッグだと風と瑠璃はすぐに気づいた。何故なら付き合いが長いのは勿論、ショルダーバッグには幼き風と弥生が写った写真のある小さなキーホルダーが付いていたからだ。


「弥生が何で?」

弥生には柚が行方不明な事は言っておらず、風は理由に気づかなかったが、瑠璃はすぐこの状況を理解した。

「まさか、柚と一緒にいた何者かに”やられた”という事か!?」

瑠璃の言葉を受けて反射的に風は瑠璃の胸ぐらを掴んだ。

「”やられた”ってどう言う意味よ!?」


「ごめん……言い方悪かったよ。だけど、弥生が危険な可能性はあるかもしれない」

後半声が小さくなっていく瑠璃を受けて、風は瑠璃の胸ぐらを掴むのを止めて、風は地面に膝を付いた。が、算学がため息をつき、口を開いた。

「お前がここで力尽きるなら俺だけでも先に行く。”友達”なんだろ」


風の頭の中で何かがプチンと切れた。

「分かったわよ!! あんた如きに慰められなくて良いわよ!!」

風は立ち上がり、雑木林を進み始めた。が、染杏が風の足を止めた。


「待ってください! 風さん! これって柚ちゃんの物では?」

そう言うと染杏は掌にある切れたミサンガを見せた。

「これって多分柚のだよ。そういえば柚今日、付けてたよ。ミサンガ。ちゃんと結んであったけど」

そのミサンガは弥生が柚に教えた事のある柚お手製のミサンガだった。そのミサンガが茂みに絡まっていたらしい。


「つまり、この茂みに入っていったんや。……勿論入るよな?」

航也はいちよ四人に確認し、四人とも頷いた。四人は茂みに入っていき、古い小屋を見つけた。



古い小屋の周りは茂みに囲まれていてツタが絡まっていたり、コケが生えたりと何年も使われていない様子だった。航也はゆっくり古い小屋を覗いて見た。急に航也の喉元にコンニャクがある事に気づいた。

「うぎゃぁぁぁ!!」

航也は大声で叫んだ。喉元にガラスではなくコンニャクだが、驚くには充分だ。航也の喉元をコンニャクで突き刺そうとしているのは小倉真依おぐらまいだった。


「あの……何やってんの?」

瑠璃は真依に対して質問した。真依はすると不敵な笑みを浮かべた。

「随分早かったわね。さぁ、コイツが殺されたくないならこの状況を忘れて帰りなさい」

すると暫く静かな時間が流れた。そんな中、また瑠璃が口を開いた。

「あのね。あのね。ごめんだけどさ、コンニャクでは無理だよ」

続いて風が口を開いた。

「意外と馬鹿なんだね」

また暫く静かな時間が流れた。


「見えないの!? コンニャクですよ!?」

真依は驚きながらも未だに航也の喉元にコンニャクを突き刺そうとしていた。そんな中瑠璃が口を開いた。

「試しにやって見ればいいよ。死なないから」

その言葉を受けて風、染杏は頷いた。算学はため息をついた。

航也はいつの間にか失神していた。


「えっ? いいの? 試しにとかそういう問題じゃないですよ」

真依は意外な対応に慌てて、四人に確認するが算学以外はは頷いた。算学は

「やってられないな……こんな茶番」


「茶番はこれまでよ。飽きたし、解放してあげる」

真依は航也を解放した。航也は心做しか一度天国にでも行ったかの様な顔つきだった。

「あぁ、快感……」

「キショ」

風と瑠璃は声合わせて航也の反応に引いた。一方の染杏は口をあんぐりと開けていた。


「こんな小倉さん初めて見ました……」

どうやら染杏の前では抜けた真依は見ることは無かったらしい。

「こんな小倉さんがいつもだったらいいのに……」

そんな染杏の心の声は誰も聞こえる事は無かった。

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