第18話・隠し事

あ日は暮れだし、バーベキューの匂いがキャンプ場全体を包み込んでいた。皆楽しんでいる中、東城風とうじょうふうだけは浮かない顔をしていた。それは算学数さんがくすうが言い放った言葉にあった。

「俺に弟が”いた”んだ」

過去形だった。それは既にこの世にいないという事だった。何故亡くなったのか。だから時々算学が悲しい目をしているのか。それが気になってしまい、風は周りの状況についていく事が出来なくなっていた。



「平太と詩画薇は?」

豊海瑠璃とようみるりはこんがり焼けたトウモロコシを頬張りながら、藤谷航也ふじたにこうやに質問した。航也は猫舌なため、焼けたお肉をフーフーと冷ましている最中だった。

「あいつらなぁ、二人とも部活動で来られないんや。平太は柔道部で、詩画薇は美術部でそれぞれ大会に言ってるんや」

とそんな中、結局航也は舌が軽く火傷してしまった。

「バカ」

三毛弥生みけやよいはそんな様子を見て嘲笑った。その後、目線を風にやる。風は楽しんでいる様子ではなく、何か悩み事をしているの様子でバーベキューに一口もしていない様子だった。



バーベキューも一段落し、蛍がキャンプ場を飛び交う中、弥生は風に聞いてみる事にした。それは風の一番の親友として。

「ねぇ。別に無理してとは言わないけどさ……」

弥生が喋り出そうとすると、風から話し出した。

「ごめん。心配させて。弥生とは一番付き合い長いから分かるよね」

風は勇気振り絞って話す事にした。弥生には全部。

「実はさ、算学君の事なんだけどさ、」

風が喋り出そうとすると、今度は弥生が話を止めた。

「好きなんでしょ?」


「えっ?」

風は目を点にした。

「分かるよ。何年一緒にいると思ってるの? 風に隠し事なんてさせないし」

風は弥生の言葉を受けて恥ずかしくなった。それに加えて今まで隠してきた苦労を返して欲しい気持ちだった。


「いいんじゃない。風の自由にして。……で、瑠璃はどうすんの?」

風はまたもや目を点にした。

「瑠璃? 瑠璃がどうした?」

弥生は溜息して、風と顔を近づけた。

「いい? 昔は風は瑠璃の事ゴミとしか思っていなかった。でも今はどう?」

弥生に導かれるように風は口を開いた。

「良い奴だと思ってる。……正直私だって分からないの。今まで気にしなかったから。色々と……」



辺りは徐々に暗くなっていき、風はまだ弥生に言っていない悩みを打ち明けた。

「算学君ね。弟が”いた”らしいんだ」

「”いた”? 過去形?」

やはり弥生もそこにつっかかった。

「算学君ね。時々悲しい目をしているの。多分それと関係していると思うと私……でも今はキャンプを楽しまないとね」

風は無理やり話を止めて、この問題は弥生に関係無い。弥生に頼りっぱなしも良くないと思い、皆の所に戻って行った。


「風……肝心な所で頼ってくれないから”失敗”するんだよ」

弥生は蛍達の光を見つめながら、呟いた。



「柚ちゃん!? 柚ちゃん!?」

キャンプ場の中、西尾染杏にしおそあんの声が風の耳に聞こえた。風は丁度皆が集まるテントに戻る所だった。

「どうしたの? 染杏ちゃん? 柚がどうしたの?」

風は妹の東城柚とうじょうゆずがどうしたのか。何かやらかしたのか。と思ったが、染杏の慌てた様子で勘づいた。


「まさか柚がいなくなったの!?」

風に気づいた染杏は顔を縦に振った。瑠璃や航也も既に探しているらしい。柚はバーベキューの時には一人だけテントで寝ていた。この時正直風は柚の事は頭になく、起こさず算学の事を考えていた。皆も同様でバーベキューに夢中で柚の事を忘れていた。


「突如柚ちゃんの事を思い出してテントに行ったら、柚ちゃんがいなくて……本当にすいません」

染杏は経緯を述べた後、風に対して頭を下げた。

「いいよ。いいよ。頭上げて。私も忘れていたの。……柚どこ行ったの……」



弥生は風が皆の所に戻って行った暫く蛍達を見つめて、思いにふけていた。ようやく立ち上がり、皆の所に戻ろうとしていた。道中、ある人を見掛けた。

「アイツ? なんでこんな所に?」

気になった弥生は後を追うことにした。


雑木林に入り、既に辺りは暗くなっていってたが、雑木林の中はほぼ真っ暗で視界が悪かった。弥生は目が悪く、普段はコンタクトレンズをしていた。しかしこの日はコンタクトレンズを忘れてしまっていて、ショルダーバッグに入れていた安い度が合っていないメガネを取り出してかけた。度が合っていないとしても先程よりはマシだ。


「どこまで行くんだ」

暫く雑木林は続いた。突如、右に曲がり、奴は茂みの中に入った。慌てて弥生も右に曲がり、奴の後を追うとした時、弥生の頭を鈍器の様なもので叩かれた。弥生の意識は途絶えた。



弥生の意識は戻ると弥生の体は縄で縛られてあり、口はガムテープで封じられていた。弥生の目の前にはどら焼きを頬張る柚がいた。

「……! ……!?」

弥生が喋ろうとするが、口がガムテープで封じられていて声を発する事が出来なかった。気づいた柚が弥生の口を封じていたガムテープを剥がした。勢いよく剥がしたため、弥生の口に痛みが走るのとヒリヒリとした。


「柚ちゃん? 何してるの?」

弥生の質問の答えは返ってこず、柚は誰かを呼びに行った。暫くすると奴が来た。奴は不敵な笑みを浮かべていた。


「お久です。三毛弥生先輩」

奴の正体は小倉真衣おぐらまいだった。弥生の思った道理の人物だった。

「上手く引っかかって下さいましたね。この子が行方不明だと」

真衣は柚をチラッと見て、嘲笑った。しかし、弥生は目を点にした。

「何ですか? この子が行方不明になったと慌てて来たんじゃないのですか?」

真衣は弥生の思わず反応に慌てていた。未だに弥生は目を点にしていた。


「あんたの後を追っていただけですけど……」

弥生の思わぬ返答に今度は真衣が目を点にした。

「真衣姉ちゃんがお姉ちゃんの友達と知って、真衣姉ちゃんが色々ご馳走してくれたり、お姉ちゃんの学校の様子を聞かせてくれると言ったから、ついてきちゃった」

柚が経緯を淡々と話して、弥生は今の状況を理解した。


「何が目的なの?」

弥生は真衣に質問したが、無言で真衣は柚を後ろに振り向かせると、再び弥生の口をガムテープで封じて、目隠しをして、

「再び夢の世界へ」

真衣は再び不敵な笑みを浮かべた。弥生の意識は再び途絶えた。頭をコンニャクで叩かれて。

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