第13話・本物の友達

「あらぁ、染杏じゃない。」

「真依ちゃん……」

西尾染杏にしおそあんは、小倉真依おぐらまいに会い、染杏の家の前にいた。

「どうしたの、染杏。どうして泣いてるの?」

「その………」

染杏は言葉にする事が出来ない。

「私でいいなら話乗るよ。”友達”の私が」

「”友達”か……」


「フラれたの。直接」

「豊海さんから?」

「うん」

真依は不気味な笑顔を見せる。

「なら、復讐しましょう」

「復讐? そんなの……ダメだよ」

「大丈夫だよ。”友達”の私の言う通りにすれば」

「……分かった」

染杏は渋々、了承する事しか出来なかった。




「そうか……染杏と一緒にいた奴が友達の振りをしている訳か……」

豊海瑠璃とようみるりは、東城風とうじょうふうから、真依が染杏の友達の振りをしている事を聞いた。

「なら、俺一人で十分だ」

「えっ?」

風と一緒にいた三毛弥生みけやよいは声合わせて驚いた。

「どういう事?」

風は瑠璃に聞いた。

「今回は俺が招いた事態だ。それに助けて上げたい。」

「聞きたい事あんだけど……」

弥生が瑠璃に質問した。


「正直、染杏ちゃんの事は瑠璃はどう思ってる訳?」

瑠璃は手に持っていたペットボトルのフタを開け、一口飲み、少し考えて、口を開いた。

「真面目で素直で、でも抜けてる所は抜けていて、可愛げはあると思う。……けど”好きっていう感情とは違う”」

風は優しく、瑠璃に尋ねた。

「そうか……でも、助けたいんだね」

すると、瑠璃も優しく応えた。

「あぁ。責めて俺たちが、”本物の友達”になってやろうぜ!」

風と弥生は頷き、再び染杏を探す事にした。

「お前達も結局探すんかよ……」




辺りはすっかり夜だ。風は家族に弥生の家に泊まるとメールアプリのroin《ロイン》で伝え、弥生も同様、瑠璃はこの日は、家族が帰って来ない日だったため、まだ探していた。

「どうしようか?流石に家にいると思うけど、肝心の染杏ちゃんの家が分からないんだよね」

風達三人は路頭に迷っていると、見覚えがある三人がいた。瑠璃はその三人に気づき、声を掛ける。

「あれ? アイツらじゃねぇか?」

瑠璃の後に続き、風と弥生も気づいた。

「航也、平太、詩画薇!」

瑠璃はその三人に大声で呼び掛け、その三人もまた気づき、風達に寄ってきた。


「久しぶりやな! 元気してたんか?」

関西弁の藤谷航也ふじたにこうやは、何やらお握りを食べながら、風達に聞いてきた。

「お握り沢山あるから、食べる?」

デブで高身長の柱号平太ちゅうごうへいたは大量のお握りが入ったコンビニ袋を持ちながら、風達に聞いてきた。

「久しぶりです! 元気そうで何よりです!」

敬語の桜木詩画薇さくらぎしえらは目を輝かせた。


「それにしても、こんなん遅くまで何してんねん?」

航也は瑠璃に尋ねた。

「いや、ちょっと急用でな。お前達こそ何してんだよ?」

航也と詩画薇は、風達とは別の高校に通っていて、平太は実家が料理店で、父の次を継ぐため、実力で働いていた。そんな三人は瑠璃を中心に遊び仲間だった。

「今から俺達は、夜釣りや」

航也は、後ろに釣竿を入れたカバンを背負っていた。と、風は急に大声を出した。


「あ!! そうだ!!」

「何、風さん? 良いアイディアが浮かんだんですね!!」

詩画薇が目を輝かす。

「ツッコまんと、そこは。詩画薇。急に大声出さんといて!! って」

航也が詩画薇に対してツッコミを入れた。

「で、何かアイディア浮かんだの?」

弥生は風に尋ねる。

「弥生さんは相変わらず冷静ですね」

「……。」

弥生は、詩画薇とは話が合わないらしく、親しく喋っている事を周りは見た事が無かった。


「平太って、みんなの家結構知ってるよね!?」

「そうだけど、いきなりどうしたんだい?」

平太は顔が広く、子供から年寄りまで話し相手になり、積極的に地域のボランティアにも参加していた。

「実は色々ありまして……」


風から航也、平太、詩画薇は、染杏の件を聞いた。

「俺達が聞いて良かったんか?」

航也は、瑠璃に尋ねた。

「別に悪さとかしないだろ。特に平太と詩画薇には是非とも聞いて欲しかった」

というのも、平太と詩画薇は昔、いじめられっ子で、瑠璃と航也が助けた過去があった。

「何で、俺が省かれるんねん!」

航也がツッコミを入れると、笑いが巻き起こった。


「そうだね、協力するよ。なぁ、詩画薇」

「勿論です。経験者だし、苦しんでいる人は助けたいです」

「ありがとう。平太、詩画薇」

瑠璃が感謝の言葉を述べると、航也から質問が来た。

「でも、風と瑠璃って変わったな?」

風と瑠璃はお互い、顔を見合わせた。

「色々合ってね」

風が顔を赤くして言うと、航也が話を続ける。

「じゃあ、今二人は付き合ってんや」

「付き合ってない!!」

風は先程とは比べ物にならない程、顔を赤くし、否定した。

「そこまで、必死に否定せんでも……」




風達三人は、平太から染杏の家の場所を知り、航也達とは離れ、今、染杏の家の前まで来ていた。

「ここが、染杏ちゃんの家……」

その家は、ボロ屋のような佇まいで、庭はツタだらけ、肝心の玄関のドアは、少し開いたままだった。

「すいませーん。すいませーん」

瑠璃は玄関のドアが少し開いた所から、中の様子を伺いつつ、声を発した。

「どう? 誰か人いる?」

風は瑠璃の後から質問する。

「いや、誰も見えないし、返事が無い」

が、足音が瑠璃の耳に聞こえた。

「誰か近づいてくる。染杏ちゃんか?」


しばらくすると、瑠璃の視界に染杏の姿を捉える。

「誰ですか?」

染杏は未だ、瑠璃に気づいていない様子。

「俺だよ。豊海瑠璃」

「豊海さん!?」

染杏は驚き、家の中の通路を走り、玄関のドアを開けた。

「なんで私の家がわかったんですか!?」

「知り合いに聞いたんだ。それに今、染杏ちゃんに伝えたい事があるんだ」

「私の事はもう、ほっといて下さい!」

染杏は暗いトーンで応えた。


「俺は染杏ちゃんの”友達”になりたいんだ!!」

「”友達”?」

染杏はキョトンとしている。

「あぁ、そうなんだ。それに今伝えたい事は染杏ちゃんの事を思っての事なんだ。だから……」

「なら、最初に言って下さい!」

染杏はいつ間にか泣いていた。

「泣いちゃった!?ごめん、俺のせいで」

瑠璃は焦っている一方で、染杏は一生懸命涙を手で拭った。

「豊海さんのせいじゃないです。”友達”ですね。分かりました。じゃあ、今日は遅いので、”明日”聞きますね」


「そうか……色々と悪いね」

瑠璃は後ろを振り返ると、風と弥生の姿はいなかった。

「帰ったのか。泣かせてる所見せなくて良かったぁ。」

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