刹那高校二年夏休み編・前編

第11話・思い出の駄菓子屋

夏休み二日目を迎え、昨日とは違い、夏日となった。

「弥生!」

東城風とうじょうふうは親友の三毛弥生みけやよいに会うため、弥生の家まで来ていた。


昨夜、風のスマホに一通のメールが届いた。

「なんだろう? 弥生からだ」

メールアプリのroinより、弥生のメールが届いたのだ。

「前、言ってた駄菓子屋の誘いか。明日暇だし、行こうか」

その駄菓子屋は1度閉店してしまっていたが、再び開店する事になっていた。


風は、了解の返事を送信しようとしたが、再び弥生から送信された。

「限定開店なのか……やっぱ……この時代に駄菓子屋となるとねぇ」

その駄菓子屋は、明日より開店して、たった5日間だけの限定開店らしいのだ。

「尚更だったら、了解であります!」


そうして、今に至るのだ。

「思ったより早かったね」

弥生は玄関の扉を開け、眠そうに目を擦った。そして、風と顔を合わせる。

「寝てたの?」

「いいや。寝れてない。今日の事が楽しみで」

「どんだけ駄菓子好きなんだよ」


「昨日はあんなに暑かったのに、今日は急に冷えたね」

「冷えた訳じゃないけどね。まぁ、いい天気で良かった」

駄菓子屋までは歩きで行くが、少々時間がかかる。というのも、駄菓子屋は小学校の通学路の近くにあり、高校の通学路の反対側であり、風と弥生の家は共に、高校の方が近いからだ。


「あれ、瑠璃じゃない?」

風は幼地味の豊海瑠璃とようみるりが自動販売機にて飲み物を購入しているのを見つけた。

前まであれだけ瑠璃の事が嫌いで、避けていたが、自分から弥生に瑠璃の事の話を振るようになった。

「奢って。この安いやつでいいから」

「急になんだと思ったらお二人さんではないですか。残念ですが、購入する事にしましょう」

「残念ではないでしょ。可愛いレディーが二人いる訳だし」

「恥ずかしいよ。風。瑠璃、私もお願い」


「前言ってた駄菓子屋みてぇだけど、あったっけ?駄菓子屋?」

3人で駄菓子屋に行く事になり、どうやら瑠璃は駄菓子屋があった事を知らなかったらしい。

「芽生商店街の中にあったんだよ。そもそも芽生商店街に来た事あるの?」

「いちよ、あるぜ。お袋の買い物について行ったり、友達とゲーセンとかに」

芽生商店街は、八百屋や魚屋といった食料品店や、ゲーセン、服屋、散髪屋といったものまで揃った商店街だ。

「人いるの? 今?」

「まぁ、今はだいぶ若い人達は殆ど来ないかもね。ゲーセンは割と古いタイプの物だけだし」

「ふふんーん。で、弥生が来たいと」

なんだか、弥生は恥ずかしそうだ。


そんな三人の背後に西尾染杏にしおそあんがいた。今は、細い電信柱に隠れている。

「寄りによって東城さんと三毛さんがいるなんて……」

染杏はこっそり、瑠璃の後を追っていたが、今はこうして3人になってしまっていた。

「豊海さんの情報を少しでも得ようと思ったんだけど……あの人の事を信じていいんだろうか?」


それは夏休みの前の事である。

「豊海さんや東城さんの事知りたいんでしょ?」

染杏にそう呼び掛けた1人の生徒がいた。


「あの目がちょっと不気味だった……」

「何が不気味なのかな? ストーカーさん。」

「はい、ストーカーの西尾……そわぁぁァ

!!」


染杏の目の前に現れたのは、瑠璃だった。

「すいません。すいません。誠にすいません」

「律儀なんだけど、ストーカーは良くないよ」

「いつから気づいていたんですか?」

「最初からだよ。君ってストーカーの才能が無いね」

「すいません。ストーカーの才能が無くて」

「いや、ストーカーの才能があれば良い訳じゃないけどね」


「急に用事が出来たって、アイツ、見るからに暇人じゃん」

瑠璃は風と弥生から離れ、結局、二人で駄菓子屋に行く事になった。

「そういえば、さあ、瑠璃ってどこら辺に住んでるんだっけ?」

「えっ? そんな事も知らなかったの?」

風は瑠璃の住んでる場所を知らなかった。幼馴染にも関わらず。

「海の方だよ。遠いのに、ずっと歩きで学校行ってんだよ」

「げっ! タフやな。片道一時間ぐらいかかるんちゃうか?」

「なんで、関西弁? 瑠璃の父さんは漁師だからさ」

「それも知らへんかった。だから、あんな名前なんやな」

「止まらんな。関西弁」

「弥生も関西弁になってるで」


二人の目の前に芽生商店街の入口が見えてきた。

「ふぅ。やっと着いた。夏はしんどいなぁ」

「アイスでも買おうか」

二人が来た時間帯は午後の二時頃だったが、駄菓子屋の影響からか、いつもより人がいる。

「あったよ! 駄菓子屋!」

その駄菓子屋は二人が小学生時代に行った頃と全く同じ場所、佇まいであった。

「凄い人! 子供やたぶん、私たちと同じ歳くらいの人、大人が!」

「よく残ってたね。建物自体がさ。懐かしいな」

「弥生は芽生商店街久しぶりだったけ?」

「私は久しぶり。風が来た時は残ってたの? この建物自体?」

「残ってたけど、なんか、ガタがきてたみたいで、空き家みたいだったよ。綺麗にしたんだね」

「そりゃあ、お客さんが来るからね」


二人は入店するなり、駄菓子の物色タイムに。

「ぎゅうぎゅうだね。すいません、通ります!」

大盛業で、狭い通りも人で埋め尽くされている。

「見て見て、風。この駄菓子! 懐かしいよ。よく食べてたよね。あっ! これもある! あっ! あれも!」

いつもと違い、弥生のテンションが上がっていて、目を輝かせている。

「落ち着いて、弥生!」

が、風はとある知人を見つける。

「あっ。アイツだ!」


風が見つけたのは算学数さんがくすうである。

「意外だな。駄菓子屋に来てるの」

算学は風に気付いた瞬間、その場を逃げ出した。不格好な走り方で。


「何だったんだ?」

弥生はその様子に気づかず、駄菓子物色中だった。

「そうだ弥生! アイスは?」

「あっ。アイス買うんだったね。ごめん。テンション上げすぎて」

「いやいや、別にいいよ。気にしないで」

駄菓子屋の風鈴が心地よい風を受け、音色を奏でた。

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