第10話・2人っきり
「入ります」
その部屋は余り使われて無かったらしく、少々、ドアを開けるのに苦労した。
「こんな所、呼び出して何なのよ」
先に部屋に入っていた
「人目がつかない所を選んだだけだ。それに、今日からお前は”数学部”の一員だ」
「だから、その”数学部”って何なのよ?」
また、算学は、ため息をついた。
「この前も言ったはずだ。数学の素晴らしさを伝える部活だ」
算学による数学の素晴らしさを教える謎の部活は、風の分からない数学の問題を教えるのではなく、
「数学は生活を支える柱の様なものだ。いや、パートナーか?」
その言葉に風は思わず、ドキッとした。それは、算学のパートナーが風であると一瞬思ってしまったからだ。
「コイツ、わざとパートナーって……」
「なんか言ったか? テストの数学の問題を解説して欲しいのか?」
「言ってない!けど、教えてくれるなら、教えて欲しい」
算学はペットボトルの炭酸飲料を一口飲んだ。
「ならば、数学の歴史を知ってからだ」
結局、この日は十七時まで数学部の部活動をした。
「そろそろ、終えるか。腹減った」
算学がそう言ったが、風は疲れて、既に眠りの中だった。
「やっぱり、風と二人っきりでこうして、話したり、数学を教えるのって楽しいな」
算学の唇は風の唇に近づく。
「寝ているなら、いいよな」
が、突然、風は起きた。
「痛っ!! 何?」
「何? じゃない。何、突然起きる?」
「えっ? 私、寝てたの?」
「あっ……あぁ、寝てた。……馬鹿者!」
「馬鹿者? す……すいません?」
算学は立ち上がり、荷物を片付ける。
「帰るの?」
「外見たら、どうなんだ」
風は閉め切っていたカーテンを開ける。
「綺麗な夕日だ」
「そうじゃないだろ。もお、十七時だ」
「そうなんだ。こんなに長く二人っきりでいたの始めてだね」
「始めてじゃないだろ」
「えっ?」
風はその事が、小さい頃共に算学と一緒にいた事だと気づいた。
「早く帰るぞ」
「二人で?」
「まずいか? この時間帯、誰とも合わんだろ?」
二人は教室を出て、下校する事にした。
そう思えば、算学と風が二人っきりで下校する事が始めてだと風は気づく。
「二人っきりは恥ずかしな」
「数学部も二人っきりじゃないか」
「そうだね……」
上手く話が進まない。が、算学が口を開く。
「一つだけ、質問を許す。遅くまで付き合わせたからな」
どうやら、今日の事は算学は悪いと思っているらしい。
「だったら……なんで、私の告白を断ったの?」
すると、算学の足の歩みが止まる。
「どうした?」
「それは、あれだ」
「あれってどれ?」
「その……いきなり、旦那になれる訳ないだろ!」
算学は恥ずかしながらそう言った。
「は?」
「は?」
「いや、は?」
「話が進まんだろ!」
「何が不味いの? ちゃんと告白してんじゃん!」
「いきなり、旦那になるんじゃなくて、”付き合って下さい。”だろ!」
算学は恥ずかしそうで、この場を逃げ出しそうだ。
それを聞いた風も顔を赤くする。
「ソウダネ。ウン、ソウダヨネ、フツウワ」
「おい!」
「ヤラカシマシタワ、ワタシ。ゴメンナサイ」
「カタコト止めろ!」
すると急に、風は倒れた。
「おい、風! 風!!」
風は目覚めた。周りを見渡すと、公園の遊具でいっぱい。風はベンチで寝ていた。
「やっと起きたか。馬鹿者」
「えっ? 何があったの私?」
「急にお前が倒れたんだよ」
「ごめん。普通じゃないんだ。私」
「知ってる。ほら、飲め」
算学より、缶の炭酸飲料を渡される。
「ありがとう。その……迷惑だよね」
「何が? お前の個性だろ」
「個性?」
「それがお前の個性だ。しょうがない」
「そう……でも、変わりたいんだ。普通の女の子に」
風は缶の炭酸飲料を開け、一口飲む。
「変わるか……」
「どうしたの?」
算学は悲しい目をする。
「実はさ……」
「ん?」
「やっぱりいいや。もお、遅いし。また、今度な」
が、ベンチから立とうとする算学を風は止める。
「相談出来る事なら相談のるよ?」
「いや、いい。迷惑かけるから。それと、お前と俺は」
公園を後にした。
「やっぱり、このままでいいんだ。お前を幸せに出来ない。”犯罪者の息子”にはな。”最低な俺”にはな」
夏休み初日を迎えた。この日は記録的猛暑日となった。
「別にやる事ないな。部活無いし」
今日の数学部は休み。今度は1週間後だ。
「お姉ちゃん! 遊ぼう!」
妹の
「何して遊ぶ?」
「花札!」
「小3の遊びかよ!」
風と柚はクーラーの効いた風の部屋で花札を遊ぶ。遊びながら、昨日の算学の事を考えた。
「何か悩みあったのかな?」
「お姉ちゃん! 次!」
「ごめん。カスばっかりだなぁ……。」
「この勝負は柚が貰った!」
結局、この日はモヤモヤしつつも、柚との花札をやり、テレビや動画を見て、友達の
「大丈夫かな」
風は算学と会えない状態が、寂しいと思い始めていた。それに加えて、算学の悩みに関しても、心配していた。と、風のスマホに一通のメールが届いた。
「なんだろう?」
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