第8話・夏休み前は試練の前
「そういえば、さぁ。あの時、私に何を伝えたかったの?」
「あの時?」
「その……思い出したくない事だと思うけど……」
その風の反応に弥生は勘づいた。
「あぁ……私が事故った時の……」
それは数日前、弥生が信号無視したバイクに接触してしまい、事故を起こした事である。その時、弥生は走っていた。何故なら、風に早く伝えたい事があったからだ。
「その……別にいいじゃん……」
弥生が珍しく顔を赤くして、横を向く。
「へ? 何か不味い事言った?」
「風は悪く無いよ。今更言える事じゃ……」
「言ってよ! 気になるじゃん!」
「絶対馬鹿にするでしょ」
「なんで確定なの!? お願い致します。風は命を賭けて貴方様の伝えたい事を聞きたいのです」
「何、そのキャラ?」
風は弥生の話を聞くなり、爆笑した。
「変なの! 昔から弥生の弱点だよねぇー」
「ほら、馬鹿にする」
「ごめん。でも……それは流石に無いよ。」
風と弥生のお喋りに
「とりゃあ。この瑠璃を置いて何面白い話をしてるんだい?」
「瑠璃聞いてよ。弥生がね」
「何で瑠璃に言うのよ!」
弥生は恥ずかしく、瑠璃に言うことを拒んだ。
「いいじゃん。近くの駄菓子屋さんが再び開店する事になった事なんて瑠璃に言わないから」
「いや、言っちゃったじゃん!」
瑠璃と弥生が声を揃えてツッコんだ。
その駄菓子屋は、風と弥生がよく一緒に行って、楽しい時間を過ごした駄菓子屋だった。だが、二人が小学校六年生になる頃、店が閉店してしまっていた。理由は老父婦の奥さんのほうが他界してしまい、夫のほうが息子夫婦の勧めで、店を閉店していた。しかし、その老父婦の息子が再び駄菓子屋を開店する事にしたようだ。
「今時、珍しいな。駄菓子屋なんて」
「結構復活の声が多かったみたいだよ。人気だったからね」
風と瑠璃が話を進めているが、弥生は顔を机に伏せてしまっている。
「あっ。ごめん。弥生」
「この話は今日は置いといて!」
弥生は大のお菓子が大好きで、他にも本や将棋が大好きだった。
「ここはお詫びとして将棋の相手をしてやっか」
「瑠璃、あんた、将棋指せたっけ?」
「指せるよ。風は本当に俺の事を知らないな」
「悪かったわね!」
この二人の様子をこっそり弥生は見て、微笑んだ。
「良かった」
時は夏休みの1週間前になり、暑さは高まり、授業中、もう既に夏休み気分の生徒もちらほら、出ていた。そして、急に
「この夏、試練を受けるか?」
「はい?」
風の告白の失敗から数日が経つが、あれから1回も風と算学は話す事は無かった。
「分かるだろ。もしかして、分からないか。馬鹿だから」
「馬鹿じゃないし!」
風はこの頃、心の変化を感じていた。最初は算学の事を嫌いだったが、幼い頃に交わした結婚の約束の事、時々見せる弱みや、意外と部屋が汚く、実は人間味があったりとという、ギャップに心を動かされていた。が、そんな中で、学校の屋上での渾身の告白も失敗した。
「残念でした。次な。と、言ったはずだ」
確かにその時にそう言われた事を風は思い出した。
「そうだけど……試練って何?」
「分からないのか? やっぱり……」
「馬鹿じゃない!!」
算学が最後に言い終わるまでに反論したため、少し算学が驚いた。その反応に風が心掴まれている事に、風は今更気づいた。
「とにかく、チャンスをやる。七月、八月は俺から出される試練、もしくはお前から攻めてこい!」
「何を言って……」
言い終わることなく、風は気づいてしまった。
風は思った。(これって、付き合うチャンスって事?いや、待て待て。あっちから、なんも私の事をどう思ってるか分からないじゃん!つうか、寝癖すげぇ。)
「なんだよ。どうすんだよ」
「やってやろうじゃないの!」
「ならば、条件がある」
「条件?」
「あぁ。俺たち2人の関係、今回の試練については周りにバラすな!」
「そんなの、私も同感だよ!」
「お前の友達にもだ」
その言葉を聞いて、風の言葉の勢いが止まってしまった。友達、すなわち、弥生にもバレずに、相談しない事を意味する。
「分かったわよ。それでいい」
少し風の声のトーンが落ちていた。
「じゃあ、早速だが、俺の”数学部”に入部しろ!」
「……。」
風は言葉にする事が出来なかった。
「死んだか?」
「死んでない! 何よ、それは?」
「簡単な事だ。俺が数学の素晴らしさを伝える部活だ」
「それは部活って言うの?」
「部活は部活だ。一学期最後の日に、校舎B棟の3階の1番右奥の部屋に来い! 今日はそれで以上だ」
「ちょっとまだ話は終わってない!」
算学が屋上を後にしようとする時、突然振り向き、
「お互い上手くいくといいな」
そう告げると、算学は屋上を後にした。その時、屋上の裏には1人の人間が様子を見ていた。
「やっぱり……この二人付き合ってるのかな? でも、前は真逆というか……豊海さんはどう思ってるんだろう?」
染杏が二人のいる教室内をしばらく、見ていたが、離れようとしていた。
「いい事教えて差し上げましょうか?」
西尾染杏を止めたのは一人の生徒だった。
「豊海さんや東城さんの事を知りたいんでしょ?」
「はい……その……」
「貴方の知りたい事を洗いざらい、話ましょう」
学校の木々には蝉が鳴き、太陽がチリチリと暑さを伝えていた。
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