第7話・告白

東城風とうじょうふうは久しぶりに夢を見た。その夢はあの日あの時に似た夢だった。花畑が辺りを広がっている。目の前には男の子がいる。ちょっと恥ずかしそうだ。

「約束してやる。忘れるなよ」

「うん。絶対だよ」

「何が絶対だよ?」

「えっ? 三毛弥生?」

「フルネーム……風が氏名されたよ」

風は気づくと、夢の中ではなく、授業中だった。丁度風が、氏名されたらしい。

「東城、お前だ。そもそも、なんで何も机に置いてないんだ」

担任の鳴子遠なることおいによって注意されると、急いで教科書やノートらを取り出そうとした。が、筆記用具を落とした。

「しまった!」

椅子の下だっため、取った後、椅子に頭をぶつけてしまった。

「何やってるの? 大丈夫?」

「平気。平気。イッテェ―……」


算学数さんがくすうは、風の事を見て、心で思った。

「何やってんだ……変わらないな……あの頃と……」

算学は消しゴムを落とす。消しゴムは転がって、ある男子生徒の椅子まで転がっていく。


豊海瑠璃は風の事を見て、吹き出した。

「どうした? まさか、俺の言葉まだ引っ張んてんの?」

「此処でその話を……」

辺りがザワつく。

「えっ? 告ったのか? 豊海?」

「ヒューヒュー!」

風の顔が赤くなっていく。


算学も勿論、その様子を見ていた。

(なんなんだ。アイツ。そりゃ、風は幼馴染として見てくれなかった訳だ。)

風はつい、この前まで瑠璃の事をゴミのような扱いをしてきて、瑠璃についてあまり知らなかったが、最近は幼馴染として、色んな瑠璃の情報を得ている。誕生日、好きな物、嫌いな者などだ。今では普通の幼馴染関係に近づいていた。


算学の消しゴムはそんな瑠璃の所に転がってしまった。

「寄りによって……」

そんな算学の事に対して、風と瑠璃は

「馬鹿じゃないの!こんな所で話す話じゃないでしょ!?」

「まさか、認めるのかい!?」

「違うわよ!! 瑠璃、シャラップ!!」

辺りがよりザワつく。

「名前呼びかよ!」

「あだ名呼びっしょ!」

「そうだな。もっとやれ! 豊海!」

風は限界に近づいている。算学も同じく。


「授業中だ!!」

担任の遠によって、辺りは静まった。

「ありがとうございます。先生!」

風は目を輝かせ、頭を下げる。

「お、おう……授業再開だ!」

思わぬ、感謝の言葉に鳴子は焦った。


「周りに勘づかられず、算学の情報を得るには……」

風は悩んでいた。算学とは昔、とある約束をしていた。だが、以前に約束の事を算学から切り出された。だが、内容は違い、

「お前を東大に行かせてやる!」

というものだ。だが、簡単に鵜呑みに出来なかった。

「どうしたら約束の確認を……」

そう思っていると、算学が風に話しかけてきた。

「話をしたい。放課後、屋上で」

チャンスだ。喜びに満ちていたが、声に出さず

「分かった」

クールさを保ち、放課後を待った。その様子を、教室で瑠璃が、廊下で西尾染杏にしおそあんは見ていた。


放課後、約束通り屋上に行き、既に算学が来ていた。外を眺めている。

「なぁ、約束の事なんだけど」

算学は振り返る事無く、風に話しかけた。

「実は東大の件、アレは嘘だ」

「やっぱり……」

「えっ? やっぱり?」

算学は振り返る。

「実は……私も約束覚えてるんだ」

「そうか……」

算学は深呼吸する。

「アレを言え! お前が!」

「何よ! アレって!?」

「アレだよ! アレ!」

「アレじゃ分かん……まさか……」

風は気づいてしまった。あの約束した時の言葉をもう1回言うと。

「早くしろ!」

「分かったから! 急かさないで!」

風の心臓はバクバクだ。此処を逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

「私の旦那さんになって下さい!!」

目をつぶり、叫んだ。

「何言ってんの?」

「えっ?」


一旦、風の思考が止まる。

「気分害した」

「なんでそうなるの? 間違ってた!?」

「クソ……」

瑠璃は急に風に近づく。風の真正面で鼻が付くか付かないぐらいだ。

「残念でした。次な」

そう言うと、算学は去っていく。

しばらく、風はそこを立ち尽くしていた。


「残念でした。次な」

この言葉の意味を探していた。

「あたしの事好きなの? 好きじゃないの? まさか約束違う?」

頭を抱える。この事は弥生、勿論、瑠璃には言えない。

「ダメだ。今日はもう寝よう」

まだ午後6時にもなっていない。が、疲労と困惑で頭がいっぱい。

「ただ、不器用なのかな……自分は」

それは昔からの風の悩みだった。

人間関係が不器用、手先が不器用。それが沢山の失敗に結び付いていた。


「私の旦那さんになって下さい!!」

風の言葉が算学の頭に再生される。

「今の俺を好きなのか?」

算学もまた悩んでいた。昔からの算学の悩みだった。人間関係が不器用過ぎで、ろくに友達と呼べる者も出来なかった。かといって、イジメにあった事も無い。自分に正直ではなく、嘘を貫いてきた。

ふと、もう1つの悩みが頭に過ぎる。

「お母さん……」

算学の母の事である。

「会いたい……会って、泣いて、そして……」

幼い頃から離れ離れだ。理由がある。

「母さんは悪くないんだ。全部……全部……俺が悪い……」


刑務所にて、今日も目を覚ます。

「数君……数君……」

算学理絵子さんがくりえこは泣いていた。毎日の事だ。

「会いたい……愛しい私の子……」

今日も辛い一日が始まる。

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