第5話・それぞれの想いは悩みの種

「お前に話がある」

「なによ。いきなり」

そこには今まで見た事ない真剣な顔の豊海瑠璃とようみるりがいた。

「この前に来た一年の事なんだけど……」

「染杏ちゃんの事?」

「そんな名前なんだ。」

やっぱり、いつもの瑠璃じゃない。

「実は俺の事諦めさせて欲しい」

「えっ? 私が染杏ちゃんに!? 出来るわけ……」

「無理だよな……」

言葉に詰まった。豊海は本当に好きなのは実は自分かもしれない。冗談じゃなくて本気だったのかもしれない。

「お前、算学のヤツ気になってるんだろ?」

「なんでそうなるの!?」

自分の心が読まれているようだった。でも実際に好きだったのは五歳頃、約束した時の算学だ。今は違う。違うけれど……そんな気持ちでいっぱいだった。


「今の俺は好きじゃないよな。」

算学数さんがくすうもまた悩んでいた。

「昔の自分ってどうだった?」

視線の先はあの頃の二人が写った写真があった。

「可愛いな。風」


東城風とうじょうふうは決心した。これ以上前へ進めなくてどうする。アイツを見直してやる。瑠璃の目を見て話し出した。

「実は約束したんだ」

「約束?」

「うん。五歳の時だったのかな。私と算学と……」

「その先は言わないで!!」

「えっ?」

「やめて……」

瑠璃は姿勢が砕け落ちた。

「どうしてだ……」

「ちょっ……瑠璃?」

久しぶりに名前で呼んだ。

「よっしゃぁァァ!!」

「えっ? えっ? 瑠璃?」

急に瑠璃がガッツポーズと共に雄叫びをあげた。

「やっと名前を呼んでくれた。風」

その時、瑠璃が風に抱きついた。

「ありがとう。ありがとう。風。それだけで充分だ」

風は瑠璃を振り払うことなく、気が済むまでそのままでいることにした。


「お姉ちゃん!」

風は妹の東城柚とうじょうゆずに叩き起された。無論、今日は休日である。しかも昨日はあんな事があったばかりだ。

「何? 柚。今日は休みだよ」

「大変だよ。弥生姉が!」

「弥生がどうしたの?」

寝起きであまり柚を見る事が出来ていない。親友の三毛弥生みけやよいがどうしたって言うのか。「弥生姉が……弥生姉が……」

柚が泣き出した。部屋の絨毯が涙で濡れていく。

「どうしたの? 柚。大丈夫。大丈夫。落ち着いてお姉ちゃんに話してみて」

「弥生姉が事故にあった」

風は言葉に出来なかった。親友。いや、長い一番の親友が事故にあったからだ。


風と柚はバスに乗り、弥生が搬送された病院に向かった。弥生は、まだ意識が戻らないらしく、もう既に沢山の花などが置かれていた。

「弥生がなんで……」

すると1人の男が入ってきた。

「二人とも来ていたか」

「パパ!」

風と柚の父は声のトーンを下げ、部屋に入ってきた。どうやらさっきまで泣いていたらしく、目が赤くなっていた。

「昨日、家に行こうと走っていたらしい」

「私の家に? 走って?」

急いで伝えたい事でもあったのだろうか。

「走っていた時、信号無視したバイクとぶつかったらしい」

「どうしてだろう。ヨリによって弥生が……」


弥生は走る。ひたすら走る。今にも雨が降り出しそうだ。

「早く……風に伝えないと……」

大通りが見え、横断歩道を横断しようとした。バイクが走る。バイクは弥生の方に向かい、走ってくる。信号無視のようだ。弥生の意識は途絶えた。


学校は行かなければならない。数日経つが弥生は、まだ意識が戻らないらしい。算学、瑠璃、染杏、そして弥生。風の頭に沢山の悩みの種が撒かれていた。

「弥生は目覚めないのか……」

あの瑠璃も心配していた。でもこれ以上は話せなかった。お互いズム痒いのだ。幼馴染の事故と複雑な恋愛感情が風だけではなく、瑠璃、そして算学もその一人だった。「ちょっと話がある。豊海も一緒でいい」

算学が風と瑠璃に呼びかけた。外は土砂降りで風も吹き荒れていた。

「うん。分かった」

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