第4話・真相

「話せない……」

東城風とうじょうふうはあの日の宣言と裏腹に、算学数さんがくすうに約束の事や今の好意の確認を出来ず、一ヶ月を過ぎようとしていた。

「覚えてる訳ないか……五歳ぐらいの時だし、そもそも違ったら恥ずい……」

そんな気持ちで授業もまともに受ける事が出来なかった。問題はそれだけでは無かった。

「豊海って……何が好きだっけ……」

豊海瑠璃とようみるりの事を知る事だった。

「でも……あれ?なんで豊海の事知っていったら……」

その続きは言葉に詰まった。嫌いと思っていた。どうでも良かった。なのに急に豊海について興味とか持ったら……

「好きになっちゃうじゃん……たぶん。」

あくまで算学の言葉や瑠璃の事を好きな染杏のためであると強引に気持ちを押し込めているのだった。


刹那高校はゴールデンウィークシーズンとなり、学校は休みとなり学校に来る生徒はほとんどいなかった。

「これはチャンスだ!」

風はこれを利用して取り敢えず、算学を遊びに誘う事に決めた。弥生に勘づかれないよう、この事を話さないでいた。早速ゴールデンウィーク前日に学校で話す事にしたのだが。

「いいよ。別に」

「えっ?」

まさかの一発OKだった。断ると思っていた。緊張気味で余り前日寝れなかった事を風は悔いていた。

「その……どこに行くかなんだけど……」

「俺の自宅で」

「えっ!?」

眠たそうに言った意外な算学の発言に風はしどろもどろになった。(いきなり? 家? 早いって! 両親とご挨拶? えっ? 結婚すんの?)

「おい、失敗女。変な妄想すんな。親は居ない」

「えっ?」

「父は1年前に死んだ」

「お母さんは?」

「別にいいだろ……」

なんだか気聞かれたくない様子で、そっぽを向いた。


「ここが俺の家だ」

そこは白を基調とした余り綺麗とは言えないアパートだった。階段を上り、二階に着き、そっから一番奥の部屋が算学の住む部屋だった。

「お邪魔します」

「邪魔するなら帰れ」

そんな言葉を無視して入ろうとすると目の前に大きなゴミ袋が飛び出してきた。

「うぎゃあ!!」

「隣人に聞こえる。まぁ隣は空いてるけど……」

そう言うと大きなゴミ袋を動かすと、部屋にゴミが溢れていた。

「汚な!」

「失礼なやつだ」

「よくこんな所に住んでんね」

「昨日これでも片付けた」

そう算学は言うのだがカップラーメンやペットボトルなどのゴミが、風の進路にトラップのように、置かれている。

「ここら辺に座れ」

そういうと強引にゴミを動かし、新聞紙を敷き、ここに座れと指を指した。

「……。学校ではあんなに完璧人間なのに」

「アレは裏の顔だ」

「聞くけどさ。なんで私には表の顔? を見せるの?」

「別に意味は無い」

算学は思った。(言えるかよ。約束なんて覚えてる訳ないし、違ったら恥ずいし……。)


風は思った。(この質問て結構やばかったけ?ストレートに約束の事を……でもやっぱし恥ずい……)


風と算学はそれぞれ約束の事を聞けずしまいで沈黙の時間が四、五分経とうとしていた。が、風は覚悟を決めた。

「約束……」

そう呟くと算学が少し反応した事に気付いた。

「俺から言ってやろうか?……」

「えっ? つまり……」

風は少し気持ちが軽くなったが、ついに真相となると、体が小刻みに震えている事が分かった。

「小さい頃なんだけど……実は俺とお前は以前会ったことがあって……約束したんだ」

「それって?」

風の胸が熱くなっていく。

「お前を東大に行かせてやるって!」

「えっ?」

また沈黙の時間が流れた。


「東大?」

「やっぱし……覚えて無かった……バカだし、おまえ。」

「いや……違うけど……」

「えっ? 覚えていたのか?」

「そういう事じゃなくて……」

「バカを否定すんなよ」

「その違うじゃない!」

風は反射的に立ち上がった。

「そうか……やっぱし……勘違いだったんだ」

どうやら風の思っていた約束は勘違いだったらしい。その日はそれ以外話すことなく、十分も立たず、算学の自宅を後にするのだった。


算学は風が帰った後、壁に拳を当て、

「そうじゃないだろ……俺こそ失敗作だ……」

算学はこの日特にやること無く一日を過ごした。


風はすぐさま、自分の部屋にベットインした。

「算学じゃなかったの……まぁでも、別に好きじゃないし」

でも心に引っかかる事があった。「でも昔、好きだったあの人を最近忘れてた……そもそも勘違いってありえるの?」

好きだった人をしばらく忘れてた上、勘違いで終わる問題だとは思っていなかった。

「お姉ちゃん、瑠璃兄が来たよ」

「部屋に入る時はノックしないと。なんで豊海が?」

窓から下を覗くと、玄関前に瑠璃がいる事が分かった。玄関前に風は下り、扉を開けた。そこには今まで見た事ない真剣な顔の瑠璃がいた。

「お前に話がある」

「なによ。いきなり」

暗雲がこちらに向かってるのが分かった。

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